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亡くなった知らせの直前にあった、母の番号からの着信は。発見に関わった全ての人の話を総合すると、間違いなく母自身が最後の力を振り絞って倫音と繋がろうとした結果なのだろうと……。
けれど、何を伝えようとしたのかも、今は知るすべもない。
そして、倫音自身も思慮する。
もしも母の臨終に立ち会えていたならば、何と声をかけてあげられたのだろうかと。
考えても仕方のないことを繰り返し思い浮かべては、答えを導かせられずにいた。
「それはそうと……調査の件は、どうなりました?」
母に対する堂々巡りの思考から逃れるように、倫音は佐田と珠輝、そしてノブコによる三角関係不倫のその後について、タカシに探りを入れた。
「ポシャったよ」
首をすくめ、笑みを浮かべつつもタカシは小さくため息をついた。
「私が、首を突っ込んだから……」
珍しく猛省の態度を見せる倫音に、タカシは抗うように手を振る。
「違う、違う。本人……対象者である夫、つまりは佐田英治がゲス過ぎたんだよ」
慰謝料目的で複数の愛人を訴える魂胆だった佐田の正妻だったが、ノブコの夫から「妻を寝取った間男」として、逆に佐田が訴えられる事態に陥ってしまったのだという。
「それは……取り下げざるを得ませんね」
身震いするように自身の両腕を抱く倫音に、よくある話だと言わんばかりにタカシは解説した。
「『かや乃寿司』のパートである安西ノブコの夫は、元々筋者の男だったらしくて。相手が悪かったよね」
カミナリ様……もとい、昭和のスケバンを彷彿させるパンチカーリーヘアのノブコがケンカ慣れしている理由も、それとなく合点がいった倫音だった。
「極めつけは、女子大生に手を出したことだよね」
やはり、紗奈も佐田と関係を持っていたのだ。
『結婚を前提にと言われ、付き合った』
『信じて、処女を捧げた』
どこまでが真実か定かではないことを紗奈自身の口からぶちまけられ、佐田の立場は絶体絶命となった。
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