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「結局、佐田側から慰謝料を支払って、ジ・エンド」
「別れる選択肢は、なかったのですか。奥さんにとっては、屈辱以外の何物でもないじゃないですか」
「腐っても『かや乃寿司』の出世頭だからね、夫の佐田英治は。女遊びには目をつむって、経済的保障を取る。メリットのある方に考えに落ち着いたんだよ、妻側としては」
釈然としない中にも、タカシからの報告で夫婦には色々な在り方があるのだと、倫音は初めて知ることができた。
「マダム・ヨーの店長、珠輝さんは……」
「彼女は、思った以上に強かだったよ」
珠輝の愛人稼業は初犯ではなく、自社の重役たちとも複数の関係を持っていることが判明した。
『痛くもかゆくもないわよ。バラされて困るのは、偉い方たちの方だから』
伊達に四十過ぎまで独身を貫いて今の地位を築いてはいないのだ、と開き直っていたという。
「性欲と出世欲って、比例するんですかね」
「え? どうだろうね」
佐田といい、珠輝といい、逸脱した貞操観念を持つ者ほど上昇志向が強いように思う。倫音からの素朴な質問に、タカシは飲みかけたお茶を吹いた。
「マダム・ヨーの店長から、正社員にスカウトされていたんだよね。こちらこそ、巻き込んで潰してしまってごめん」
詫びるタカシに、心から清々しい気持ちで倫音は答えた。
「それこそ……そんな裏事情のある会社なら、遅かれ早かれ白紙になっていました」
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