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━━二年後。
「何ですか、その封筒」
とあるワンルームマンションの一室を事務所とした興信所のデスクにて。顧客名簿を登録しながら、倫音は尋ねる。
「調査依頼」
匿名の電話を受けて外へ出るや、一時間ほどで帰ってきたタカシの手にはシンプルな茶封筒が持たれていた。封の甘い袋からは、大学生の初任給ほどの札束と一筆箋がすべり落ちる。
「『夫には複数の愛人がいます。社会的地位が失墜しても構いませんので、制裁を加えてください』……こちら、必殺仕事人じゃないんだけど」
茶化しながらも、どこか嬉しそうなタカシに倫音は真顔で尋ねる。
「調査対象者の名前は……」
「三田克彦。所属は浪越屋百貨店外商部、役職は課長」
「私に出来ること、ありますか?」
待ってましたとばかりに、タカシはハローワークの求人コピーを差し出す。
「依頼人の夫の職場。間の良いことに、契約社員を募集してる」
「直ちに面接を受けます。その前に、履歴書を買ってきます」
そう告げたときにはすでに上着を羽織り、事務所のドアノブに手をかけていた。
「領収書もらってきてね、倫音ちゃん!」
踏み出す足を止めることなく、倫音は叫ぶ。
「下の名前で呼ばないでください!」
不倫ハンターとして、彼女が駆け出した瞬間だった。
<【女子大生編】了>
『不倫ハンター・倫音【長編ver.】』episode 01 【外商事務編】へと続く。
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