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私
私は今日もここに居る。
バリに来て、もう何日目になるだろう。
毎日通いつめる事になったこのプールサイドバー。バーテンダーのマイケルが、毎日話し相手になってくれて、居心地がいい場所なのに、なぜか毎日泣いている。ひとりでいることがさみしいわけじゃないし、バリが嫌なわけでもない。酔うと、必ずあいつが頭の中を占領してきて、勝手に涙がでてきてしまう。こんなにも自分が傷ついていたなんて、あいつを思っていたなんて。
日本にいた時は平気だったのに。
忘れようと思って、なにもかも捨ててきたのに。
遠く離れたら楽になると思ったのに。
それなのに。
全然ダメだ。
酔えば酔うほど、あいつとの思い出に縛られているじゃないか。
三十路にもなって、なにやってんだって言う親の顔が目に浮かぶ。
心配して空港まで着いてきた友達の顔も。
一生、日本には戻らないと覚悟してやってきたのに、もうダメだ。
気持ちが毎日揺らいでいる。
一体私は、何のためにここに居るんだ。
1人で何をしているんだろう。
自問自答がまた繰り返されて、また泣いた。
私はいったいどうしたいんだ。
「ななみ、そろそろ時間だよ」
マイケルの優しい声が、今日も私を部屋に帰してくれる。
あと何日こうしていたら、あいつが頭の中から居なくなるのか。
心のなかから消えてくれるのか。
誰かに教えて欲しかった。
それがわかれば、泣かなくてすむ。
苦しみは、いつまで続くかわからないから辛いんだ。
この先に、明るい未来があるとしたら、それがわかれば辛くない。
でも、そんな日が来るなんて、今は到底思えない。
だって、私は深い深いドロドロの沼に落とされてしまったようで、とても1人では上がれそうにはないんだから。
そんなことを考えながら、千鳥足で部屋にたどり着いた頃にはもう、窓の外は明るくなり始めていて、今日も暑くなりそうなバリの日差しをカーテンごしから感じ始めた頃、私の1日はやっと終わった。
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