六杯目 自販機の玄米茶

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 やっぱり、気にしてたか……。  わたしは相葉くんの視線から逃れるように、回れ右をして東急改札へ歩き出す。 「ちょっとだけだったから、別に言わなくてもいいかなって、あはは……」 「いやいや、最重要事項でしょ! なんかショックだわー」  そう言ってすねる相葉くん。  でも、わたしだけ責められるのはなんか納得がいかない。だって隠しごとをしてたのは、わたしだけじゃないはずだ。 「そういう相葉くんこそ。  北海道出張って言ってたの、あれ、日影坂のコンサートに行くためだったんだねぇ」  そんなわたしの言葉に、それまで強気だった相葉くんの目が途端に泳ぎだす。 「あ、いや、出張は本当だったんだよ!?  ただちょうど日程かぶってたから、ちょっと滞在のばして、つい……」 「つまりわたしより日影坂をとったと」 「そ、そんな訳ないじゃん!  アカリのことは誰よりも愛してるってば」 「ばっ、ばかっ、こんなところでそんな恥ずかしいこと言わないでよ!」  そんな会話をしながら、ふたりで東急の改札をくぐり、ホームへと向かう。  自販機で飲み物を買ってあげると言われ、「じゃあブラックコーヒーで」と言ったのに、カフェインが強すぎるからと却下された。大丈夫なんだけどなぁ……。  結果、玄米茶を片手に、わたしと相葉くんはふたりで並んでホームに立っていた。  ふと、彼がぽつりと呟く。
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