嘘に隠れた本当は虚像だった

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 付き合い始めて三百六十五日目の今日。休日ということもあり、一応デートの日だった。だが、雰囲気は良くないし、気分は乗らない。そんなことくらい、互いが分かっていても会うしかなかった。  いつも通りの駅前で待ち合わせ。人波が寄せては引いて行く中、少し外れた広場の銅像前。そこにあるベンチに腰をかけ、スマホをいじっていると、すぐに彼女はやって来た。 「おはよう」 「ん。それじゃあ行こうか」 「うん」  そう言って立ち上がっては見たものの、今日は何処か行こうと言うわけでもなかったし、適当に歩きながら、またスマホを弄り出してしまう。 「……あの、さ。……そう言えば、今日ってエイプリルフールだったよね」 「あぁ、そう言えば」 「んじゃ、私、今日一つだけ嘘をつくから見破ってね」 「ん、分かった」  自分でも驚くほどあっさり会話が終わってしまう。  初めの頃なんて、喋ることがあってもどう話せば良いか分からず、ドギマギしていたはずなのに。慣れと言うのはほんの少し怖い。でも、同時に気は落ち着く。ちょっぴり、複雑な気持ちが心を埋めていた。 「そう言えばさ、今日どこ行くんだっけ」 「あー、適当にいつものところでもブラブラするか」 「そうだね」  二人で足並みを揃え、ゆっくりと目的地へ向け、歩き出す。  付き合い始めてすぐの頃は、ずっと他愛もない話をしていた。学校の勉強がどうとか、友達がどうとか、部活がどうとか、先生がどうとか。そして、一杯笑った。沢山の笑顔も見た。  しかし、こうして無言で歩いていると随分昔のように感じてしまう。  流れ行く風景と車。通り過ぎる風は僕と彼女の間を潜り抜ける。淡い空には(まば)らな雲が覆い被さっていた。 「ねぇ、最近忙しい?」 「まぁ、受験生だし」 「そう、だよね」  素っ気ない感じだ。  彼女は一応話しかけてはくれるが、返したら呆気ない答えが戻ってくる。それこそ会話は詰まるし、何となく次の話題へと移り辛い。  ただ、時間はとても早いもので、どれだけ長く感じてもいつも通りの時間にショッピングモールに着いていた。  時折、胸の奥に針が刺さったような気がする度、彼女の方を向くが、顔を見れない。その理由さえも分からなかった。 「何処か行きたい場所でもある?」 「うーん、私は特にないかな」 「そっか」  なんて言うと、適当に歩き出す。目的なんてないし、見たいものなんてない。だが、目に入った店に入り、気になったものを見て、(しばら)くすると出て行く。  結局、僕らは何も変わってはいないのだろう。変わったとするならば、時間だけ。でも、その時間こそが大き過ぎた。  それに、僕自身は彼女が嫌いというわけでもない。ただ、今年に入り、ちょっとした頃から距離を置かれているような気がしてしまっている。そのせいか、こっちまで距離を置いてしまっているのだ。 「鯛焼きでも食べる?」 「そうだな」  会話は全て疑問形。答えは一言。そこに感情など何処にもない。ただただ、簡単な受け答え。その中には、空いた溝の距離故の配慮ばかりだった。
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