嘘に隠れた本当は虚像だった

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「他に行きたい場所でもある?」 「僕は特に」 「うーん、そしたらもうお昼だし、何か買って公園で食べる?」 「そうだな」  向かう先は安さが売りのジャンクフードのお店。いつも此処でのお昼を楽しんでいたっけ。周りから見ればちょっとイタかったのかも知れないが、別に良かった。  僕たちが楽しめたのだから、相当な迷惑にならない限り問題ないとは思う。だが、今の彼女がそれを振り返ってみてどう思うだろうか。後悔と気恥ずかしさで一杯なのだろうか。  ほんの少し横目で見た彼女の顔は、やっぱり暗かった。 「えっと、これのセットで。飲み物はコーラ」 「私は、これとこれで」 「あ、会計は一緒で大丈夫です」  財布の口を開き、店員にお札を二枚渡す。  別に、彼女は奢って欲しいとも思ってはいないだろうけど、別に良い。まぁ、優しさの一つだとは思う。勿論、まだ学生の身だし、本気の恋かと問われれば、微妙なところではある。けど、それなりに今も思う気持ちはある、ような気がしていた。  帰ってきた小銭と一緒に紙袋を受け取り、そのままいつもの公園へと向かう。  周りには大きな建物も大通りも住宅もない暗がりの中にある小さな公園。穴場スポットである反面、何が起こってもおかしくないような場所だ。それこそ、この周辺に止まる車はちょくちょく揺れていたりする。 「これとこれだよね」 「うん。ありがと」  無言のまま、手に持ったハンバーガーを口の中に入れ、コーラで押し込む。不味いわけでもないが、重い空気のせいで全く喉に通らない。無理矢理ながらも何とか完食する。ふと、彼女の方を見てみると、まだ食べていた。  取り敢えず、なんて気持ちでスマホを取り出し、色々と弄り始める。ただ、暫くとしないうちに彼女も食べ終わり、一緒になってスマホを弄り始めた。それでも、会話はない。 「ねぇ、ちょっと良い?」 「あ、うん」 「話しておきたいことがあるの」  ふと、彼女は真剣な顔でこちらを向いた。  その感じに、スマホをポケットの中にしまい、目を合わせる。風に靡く少し長い髪、揺れる黒地の上着に、白地のシャツが見えた。 「今から嘘をつくね」 「え? あ、うん」  大きな深呼吸をする彼女を見て、固唾を飲む。  何となく、冗談とか下らない嘘ではない気がして。それなりに気を引き締めた。 「君のこと、好きだった。凄く好きだった」 「え?」 「……で、でもね、思い出してよ。私から告白したでしょ? あれって実は罰ゲームだったんだよ。まさかオッケーするとは思わなくてね。だから、仕方なく付き合ってたんだよ。いやぁ、ホント笑えるよね。うん、超笑える」  嘲るような笑顔を浮かべ、馬鹿にしたような目をして、こっちを向いた。  勿論、言い辛そうにしていたが、それはそうだろう。だって、それを言って仕舞えば、僕がどう返すかなど分かりきったこと。  どれだけ嘘偽りの心で付き合っていたとしても、罰ゲームで付き合っていたとしても振られる気分は最悪に近いはずだ。  同時に、僕の心も最悪だった。 「……じゃあね」 「え? ちょっと」 「嘘だったんなら、『別れよう』とか言わなくても良いよな?」 「う、嘘吐くていったじゃん」 「……『好きだった』ってのが嘘だろ?」 「ふっ……見破られちゃったか。そりゃそうじゃん。……じゃあね」  彼女に背を向け歩き出す。  最悪。とても最悪の気分だった。  だが、何となくだが、怒りはさしてなく、虚しさばかりが溢れかえっている気がした。それも、別れたとか言うことでは無いような気がする。  何か、大きな間違いをしているような気分だった。 「クソッ」  吐き捨てる言葉は二酸化炭素と一緒に木々に吸われ、澄んだ空気ばかりが肺に入る。気持ち悪くて仕方が無いのに、雲は一つとしてない夕焼け空が綺麗に見えている。  どうして。考えても仕方が無いはずなのに、考えたくなってしまう。  それはきっと、(あざけ)るような笑顔はまるで作り物の仮面に見えて、馬鹿にしたような目は硝子細工(ガラスざいく)のように見えたからだろう。  だが、その意味は到底理解出来なかった。
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