05.赦しを請うのが悪魔であっても

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「……父と子と精霊の御名において……」 「そんなものなら要らない。俺はお前の赦しが欲しい」  神の家に響いた不遜な声は、オレにとって意外なものだった。  祈りの形に組まれた指を解いたオレへ、白い指が伸ばされる。真っ白ではなく、象牙色の肌は妙に艶めかしい。僅かな隙間を滑るように伸ばされた手が、オレの左手に触れた。 「赦しを……」  ごくりと喉がなる。  アモルが望む赦しを与えることは、神に背くことではないか? 悪魔の誘惑に負けかけているのでは? いや、そもそも悪魔に与える赦しが存在するのか。 迷いが喉を詰まらせた。 「……ぁ、……」  なにを言えばいいのか迷うオレの手を、冷たい手がぎゅっと握る。その力の強さに、オレの心はすっと落ち着きを取り戻した。 「赦しを与える」  ただその言葉だけでよかった。ふわりと手は解かれ、隔てられた向こう側でアモルが笑ったのが伝わる。その笑顔が見たくて、オレは告解室を出て隣を覗き込んだ。本来、このような不作法は許されないが……扉代わりのカーテンの先には誰も居ない。 「アモル……?」  呼びかけても応えはなく、しんと静まり返った聖堂は何の気配も感じられなかった。 「まいったな……」 『何をしているんだ、セイル』  呆れたと滲ませるハデスの声に、自然と苦笑いが浮かんでくる。抑えきれない感情が口元を彩り、オレは大きく伸びをして天井を見上げた。  開かれていない正面のドアではなく、清めなかった天窓に残るわずかな気配を感じながら……床に落ちている銀の燭台を拾い上げる。人の手が握った形にくすんだ燭台をローブの端で丁寧に拭った。 「何をしてるんだか……ま、近いうちに逢えそうだな」  左目をくれちまったし。  楽しそうなオレは赤い絨毯の上に膝を付き、正面のマリア像に十字を切って(こうべ)を垂れる。無事生き残ったことへの感謝を手早く終えると、静寂をかき消さぬよう足音を殺して聖堂をあとにした。  聖堂の上の十字架を振り返り、暗闇の中で魔性の美貌が微笑む。 「やっと……見つけた」
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