06.極上の残り香漂う紫を抱いて

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「終わった。つうか、情報間違ってたぞ、クルス。美人さんは犯人じゃなかった」  犯人はどちらかといえば獣に近い、見苦しい姿をしていたのだから。溜め息混じりに情報違いを批判するオレに対し、クルスは金髪を揺らして小首を傾げる。 「あれ? 珍しいね。リリトが間違うなんて」  彼女の透視による情報だったと知り、オレは唇をきゅっと噛んだ。  リリトの能力は歴代カタロニア家当主のなかでも最高と言われている。その彼女が、単純に『読み間違った』のだろうか。彼女とも面識があるオレは、その能力の高さをよく知っていた。だからこそ浮かんだ疑問は飲み込みきれない塊となって(つか)える。 「……オレが騙されたか?」  呟いた声を拾い上げたクルスが「どっちだっていいじゃない」と軽く受け流す。確かに終わった仕事だ。どちらでも構わないし、事実、司祭は解放されている。 「ところで……その残り香はセイルの言う美人さんのもの?」  ラウムと同じ指摘をされ、がくりと肩を落としたオレが前髪をばさりとかき上げる。 「そんなに匂うか? 自分じゃわからないが」 「僕が知る限り、最上級だね……」  悪魔祓いとしての索敵能力が高くなければ、気付かないだろう。細心の注意を払って仕掛けられた匂いは、ふわりとオレを全体に包み込むように漂っていた。実際に匂いがするということではないので、一般の司教や枢機卿では気付けない。  己の所有物であると牽制するように甘い匂いが漂う。元を探るように目を細めていたクルスが、口元に指を運んで首を傾げた。 「左目、かな?」 「ああ……そういや、くれって言われたからやったわ」  なんだ、アイツの所有印か。それは匂うだろう。所有権を持って帰ったのだから、気づかないオレが間抜けなのだ。本当なら抉られていたのだから。  あっさり爆弾発言したオレの顔を、クルスが驚きで食い入るように見つめる。 「えっ……あげた、の?」 「ああ、くれた」  悪魔に左目をくれたと言われて、何と答えればいいのか…………破天荒すぎるオレに彼は絶句するしかなかった。
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