07.必ず手に入れる

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 契約で悪魔に目をくれたのは、今更取り返しがつかない。実際抉られて遠近感が狂ったわけでもなく、失明してもいなかった。問題ないだろう。軽く考えるオレをよそに、呆れて玉座に沈みこむクルスに手早く報告を済ませた。  報告が終われば、さっさと退室するだけだ。オレはさっさと踵を返した。 「どうするの……」  疑問ですらない言葉を詰るように投げかけられ、三つ編みを揺らして顔だけ振り向いた姿勢で笑う。 「とりあえず飯食うわ」 「じゃなくて!! 左目、どうするのって……」 「くれちゃったんだし、言霊有効だろ。どうしようもない……抉らないで残してくれたんだから問題ないさ」  再び歩き出した部下であり友人でもあるオレの背に「もっと自分を大事にしてよ」と呟くクルス。  かろうじて聞こえる程度の願いに、手をあげて応えたオレは扉をくぐる。背後の扉がしまったのを確認し、ばさりと前髪をかき上げた。  歴史や権威を振りかざすための、古くて荘厳な建造物は埃っぽい臭いがする。独特のカビ臭さも慣れてしまった。ここに自分がいられるのは『悪魔祓いとしての忌むべき能力の高さ』故だ。使えるから置いておくが、使えなくなれば捨てるだけの駒だった。  クルスは違う考えでいるようだが……。 『大事にする価値があれば、な』  聞こえないよう声にせずこぼした言葉は、本音だ。自分に価値など見出せない。だから簡単に悪魔への代償に差し出せるし、相棒であるハデスを呼び出す際の対価も払えるのだ。人の身である以上、出来ることも時間も限られている――誰に言われるでもなく、オレは身に沁みて知っていた。  悪魔祓いの特別待遇を得る司教という曖昧な地位を示すローブを揺らして足を踏み出す。  響く靴音の傲慢さと裏腹に、オレの表情は苦いものだった。
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