08.終わるまで待ってて

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「綺麗だ」 「……えっと、ありがとう?」 「なぜ礼を言う」 「褒められたから、かな」  自分でもどうだろうと思うが、反射的に口を突いた言葉に深い意味はない。だが興味深そうな堕天使はオレに顔を寄せ、じっと正面から目を覗き込んだ。 「セイル、頼みがある」 「頼み?」  こくんと頷く幼い仕草につられ、つい応えてやりたくなる。しかし外見が幼く見えようが、どれだけ美人だろうが、悪魔は悪魔だった。どんな裏があるかわからず、続きを待つ。  うっかり頷いて「魂をくれ」なんて話だったら、笑えないだろう。 「少しだけ血をくれ」 「……」  素直に血をくれと言われると、何とも断りづらい。襲われたなら防御するし、攻撃しても構わない。しかし正面きって頼まれたら、先日助けてもらった恩もあるし……と考えてしまうのだ。 「どのくらい?」  まずは条件の確認からと尋ねれば、アモルは蒼い瞳を瞬かせて「ひとくち」と希望を口にする。すぐに「できるなら、もうひとくち」と追加された。二口分の血がほしいと強請る彼は、断られると思っていないのだろう。  じっとこちらを見つめる瞳は逸らされることがなく、逆に覗き込まれる居心地の悪さからオレが先に目を逸らした。 「……こないだ助けてもらったし、いいぜ」  そう告げた直後、背後で音がした。振り返るオレの紫の瞳が見つけたのは、墓穴から這い出る「何か」の姿だ。墓石の前に突き出した手は、明らかに「アンデッド系の何か」が絡んでいることを示していた。  ……間違いなくオレの仕事だ、これ。  普通の警察では全滅させられることはあっても、逮捕は出来ない。アンデッド系は臭うから嫌いなんだとぼやきながら、仕方なく首の十字架を外して左手に絡めた。 「とりあえず、終わるまで待ってて」  袖を引くアモルの指に気付いて、オレが硬い声で答えた。
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