456人が本棚に入れています
本棚に追加
「綺麗だ」
「……えっと、ありがとう?」
「なぜ礼を言う」
「褒められたから、かな」
自分でもどうだろうと思うが、反射的に口を突いた言葉に深い意味はない。だが興味深そうな堕天使はオレに顔を寄せ、じっと正面から目を覗き込んだ。
「セイル、頼みがある」
「頼み?」
こくんと頷く幼い仕草につられ、つい応えてやりたくなる。しかし外見が幼く見えようが、どれだけ美人だろうが、悪魔は悪魔だった。どんな裏があるかわからず、続きを待つ。
うっかり頷いて「魂をくれ」なんて話だったら、笑えないだろう。
「少しだけ血をくれ」
「……」
素直に血をくれと言われると、何とも断りづらい。襲われたなら防御するし、攻撃しても構わない。しかし正面きって頼まれたら、先日助けてもらった恩もあるし……と考えてしまうのだ。
「どのくらい?」
まずは条件の確認からと尋ねれば、アモルは蒼い瞳を瞬かせて「ひとくち」と希望を口にする。すぐに「できるなら、もうひとくち」と追加された。二口分の血がほしいと強請る彼は、断られると思っていないのだろう。
じっとこちらを見つめる瞳は逸らされることがなく、逆に覗き込まれる居心地の悪さからオレが先に目を逸らした。
「……こないだ助けてもらったし、いいぜ」
そう告げた直後、背後で音がした。振り返るオレの紫の瞳が見つけたのは、墓穴から這い出る「何か」の姿だ。墓石の前に突き出した手は、明らかに「アンデッド系の何か」が絡んでいることを示していた。
……間違いなくオレの仕事だ、これ。
普通の警察では全滅させられることはあっても、逮捕は出来ない。アンデッド系は臭うから嫌いなんだとぼやきながら、仕方なく首の十字架を外して左手に絡めた。
「とりあえず、終わるまで待ってて」
袖を引くアモルの指に気付いて、オレが硬い声で答えた。
最初のコメントを投稿しよう!