09.悪魔の約束は信用できる?

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09.悪魔の約束は信用できる?

 アンデッド系の厄介なところは、相手が死体だということだ。不衛生で崩れた見た目は触れるのをためらうし、加減を知らないから攻撃力は結構高い。そのくせ、攻撃を受けても倒れない。というか、倒れても起き上がるのが一番の問題点だった。 「めんどくさい」  ぼやきながらハデスを呼び出そうとして、思いとどまる。以前に同じような案件でハデスを使ったところ、えらく機嫌を損ねてしまったのだ。そのあとの機嫌取りや刃の掃除の手間を考えると……正直頭が痛くなった。  ハデスを使えば一瞬の相手だ。しかし面倒でも聖水などで片付けた方が、あとあと楽だろう。  溜め息をついて首の十字架を外す。右手に十字架の鎖をからめ、左手で聖水の瓶を持った。 「手伝ってやろうか?」 「いや」  楽しそうに木の枝に腰掛けて尋ねる吸血鬼へ、首を横に振って断った。ハデスと一緒で、あとで何か請求されたり機嫌を損ねるのは御免蒙りたい。  唇だけで主の名を唱えて右手に聖水を振り掛ける。慣れた儀式の手順を踏んで、十字架を目の前の死体へ翳した。触れる寸前に死体の首が崩れ落ちる。  倒れた勢いで崩れた死体は魔の支配を脱しているため……ただの肉塊だった。見た目にも損傷が激しいのは、埋められた場所から土を掘って地上へ上がった際の破損が原因だろう。  むっと鼻をつく臭いに眉を顰めることなく、次の死体へも聖書の一文をもって清めを行う。利用された死体が元の無害な子羊に戻っていく過程を繰り返し見つめる瞳に、足元で崩れ転がる死体への嫌悪は見られなかった。 「これで最後か?」  周囲を見回したオレの頭上から、アモルが小さく警告を発する。 「足元だ」 「え? ……っ」  ぬるりとした感触の直後、足首を掴まれてつんのめる。咄嗟に手をついた際、聖水を落としてしまった。薔薇の植え込みの手前に転がった瓶から聖水が流れ出す。薔薇の上に手をついたオレの両腕に無数の切り傷がついた。
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