02.教会はいつでも開かれている

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「ああ、彼は入院したからね。こちらへどうぞ」  招いても少年は迷っているのか、じっとオレの手を見つめていた。紺色……いや、明るい場所で見たら蒼なのか。透き通った瞳が、わずかな光に色を滲ませる。招かれれば中に入れるのが結界の特色だ。閉じ込める機能を優先した結界に、彼は気づいているのか。 「教会はいつでも開かれている……遠慮なくどうぞ」  再びの促しに、少年はぞくりとするような大人びた顔で笑う。声もない笑みはすべてを承知の上で罠に飛び込む意思表示なのかもしれない。よほど己の能力に自信があるのだと判断し、そっと手を引いて下がった。  素直に一歩踏み込んだ彼が完全に教会の建物の結界に包まれるまで下がり、静かに手を離す。オレの手が離れた途端、少年は深く息を吐いた。ぐるりと建物を見回し、冷めた声で指摘する。 「あの天窓も、開かれているのか?」  嵌め殺しの天窓は、高い位置は面倒だからと清めなかったステンドグラスが埋め込まれたものだ。結界の穴を一瞬で見極めた少年に、「へえ、優秀なんだな」と誉め言葉が口をついた。  通常の祓魔師が使う術とは別系統の力を使うオレの能力は、高位の悪魔であっても気づかれないことが多い。それが悪魔狩りとしての才能のひとつだった。それをあっさりと見抜いたのならば、目の前の少年の使う力が同じような系統であるか。または最高位と呼ばれる地位にいる悪魔なのだろう。 「見抜いたならなおさら、中に入るとマズイのはわかってんだろ?」 「ああ……だが、お前は俺を傷つけることはない」  断言した少年は蝋燭のそばに歩み寄り、銀で作られた燭台を手に取った。清めた銀製品は魔物の肌を焼く劇薬と同じなのに、彼は平然と振り返る。痛みに顔をしかめる様子もなかった。  ただ……美しい銀色が徐々に曇っていく。 「…………まいったな」  ため息が漏れた。  銀に触れることができ、ましてや痛みを感じない悪魔は一握りだ。最高位の中でもわずか3人ほどだと聞いたことがあった。それほど稀有な能力は、彼が『堕天使』に分類されることを意味している。  自分の力が及ぶかどうか――見極めるように紫の瞳を細めた。
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