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03.悪魔は懺悔がしたかった
「心配するな、俺もお前を傷つける気はない」
少年の言い分に、オレは嫌な予感に襲われていた。
傷つけられず、傷つけない。あっさりと口にされた言霊は誓約となり、行動の制約となる。つまり、彼は自分から戦う意志を放棄したということだ。祓魔師を前にしての言葉としては不自然だった。
「……どういう意味?」
素直に問いかけたオレへ、少年は小首を傾げて考え込む。
「そのままの意味だ。お前の力は俺を傷つけることができず、俺にはお前を傷つける意志がない」
一方通行なのか。
オレの能力で少年を傷つけることは「できない」らしい。だが、彼は「傷つける意志がない」だけで力を行使することは出来る。
自分が不利だと一方的に示されて、オレは唇を噛んだ。
「あんたの能力のが上だって?」
「いや……能力の質の問題だが…………アモルと呼べ」
あっさり名を明かした少年に、オレは唖然とした。悪魔にとって名は契約であり、容易に明かすことはしない。偽名である可能性もがあるが、彼は「あんた」と呼ばれたことが気に入らないと眉を顰めていた。
「アモル……?」
静かな聖堂に響いたオレの声に、少年は満足そうに頷く。
ほとんど無表情だというのに、アモルの考えていることがなんとなく感じ取れて、オレはあまりに友好的な悪魔に呆れてしまった。司祭を誘惑して入院させたにしては、無邪気すぎるのだ。
「とりあえず、ここの司祭を解放して欲しいんだけど?」
一応お伺いを立てたオレへ、アモルは蒼い瞳を瞬いて唇を尖らせた。
「あれは俺の獲物ではない。開放することはできない」
「…………ん? 獲物、じゃ……ない?」
「ああ……」
平然と同意され、敵を前にしていることも忘れたオレが「はぁ!?」と素っ頓狂な声を上げた。銀の燭台の蝋燭が燃え尽きて、聖堂内が暗闇に包まれる。暗い空間で、オレは数歩後ろへさがった。
かたん……音がしたのは、何か落ちていた物を蹴飛ばしたのだろう。
新月のせいで見えにくい筈の室内で、オレはアモルの姿をしっかり捉えていた。
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