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朝の新幹線はほとんどがビジネスマンで埋められていた。
林田 笑美子(27才)と小山 行成(こやま ゆきなり)(27才)はそれぞれ新幹線の座席番号を確かめて通路を歩く。
「ここね」
「窓側どうぞ」
幸成が笑美子に笑いかける。
「あ…ありがとう。でも、トイレに行くときに困るから通路側でいい?」
「どうぞ」
小山が先に窓際の席に座る。
あとに続いて笑美子が席に……。
(やっぱり、ここは譲られたとおりに窓側にすればよかったかしら、でも、トイレ行くときいちいち前を通るなんてできないし、それに窓側に座ったら、今日、天気いいのよ。最近、気になりだしたシミがこれ以上増えないようにって、考えるじゃない。もちろん、日焼け止めにSPF効果のあるファンデーションも塗ったけど……)
「どうしたの? 笑美子さん。やっぱり、窓側のほうがよかった?」
小山がなかなか座らない笑美子を心配して立ち上がる。
「そうじゃないの」
両手を振って否定する。
(いつまでもグズグズしているから小山くんに心配させちゃった。これじゃ窓側がよかったのに、譲ったように思われる)
「あの、カバン。カバンを上にあげようかどうしようかって思って」
書類や資料、モバイルパソコンも入って、重量がそれなりにある。
それを小山に見せるように前に出す。
「あ、棚に乗せるんだね」
小山はカバンを持つとさっさと棚に乗せた。
「ありがとう」
「どう、致しまして」
少し笑った小山の笑顔がまぶしい。
整髪料をつけて整えている柔らかい髪に、切れ長の目、カバンを上げるときに見えたほどよく筋肉のついた腕が男らしいと思って一瞬、見惚れた。
二人で席に座ると心臓が中学生のときの初恋とおなじような音を立てる。
ちらっと小山を見ると落ち着いてスマホで仕事のメールをしている。
(やっぱり、小山君は私のことなんてどうでもいいって思っているのよ。こんなんで、仕事が終わってからの告白なんかしても相手にされるわけない)
落ち込む気持ちを紛らわせるように自分もスマホを上着のポケットの中から取り出すと同じようにメールチェックをする。
それでも、隣に座る小山を意識して心臓がどきどきと高鳴る。
(この状態で、京都までの2時間……どうしたらいいの!?)
小山は一見、余裕があるように見えるが内心は、かなり動揺していた。
(もしかして、何も言わなかったほうが席を自然に選べてよかったかな?)
少しだけ視線を横に座る笑美子に向けると自分と同じように仕事のメールをチェックしている。
(感じ悪くないよな。何を話せばいいか、思いつかなくてついスマホを開いてしまったけど……)
小さなため息をついて窓の外をみる。
まだ、都内で高架からビルや家が見える。
眺めがよくなるのはもっと先だ。
意識を笑美子に行かないようにと思うがそれでも意識してしまう。
隣に座り、香水の匂いが強すぎず、弱すぎずにおってくる。以前、付き合った彼女はかなり強くかけるタイプだった。
一緒にいる人への配慮のできる素敵な人だとますますひかれていく。
ショートボブの髪が顔を動かすたびに揺れて、スッキリとしたあごのラインが見えて、丸い目に黒目がちの瞳、きゃしゃな体からは思えないほどの強い意志を持って仕事をする。
そのすべてが愛おしいと感じるなんて、自分でも、重症だとわかっているが、人を好きになるってこういうことだと思って、止めることはしない。
今は、親友の江崎に言われたとおりに、仕事をしっかりとこなして、少しでも好印象を与えて、告白を成功させる。
「頑張ろう!」
「え?」
つい口に出ていた。
「ああ。今日の商談。頑張ろうと思って」
「そうね。頑張りましょう」
新幹線が品川駅に着いた。
(あと2時間、どうしよう)
(あと2時間、どうする?)
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