恋愛脳男子の頭の中

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恋愛脳男子の頭の中

「林田さんはどうやって、あの社長を口説いたの?」  品川駅を出て5分間、沈黙に耐えられず幸成が笑美子に話しかけた。  この5分間で何を話題にしたらいいかずっと悩んで 笑美子が今月の営業部の成績優秀者になった一番の理由、 うちの会社、渋川株式会社の前の社長と因縁があってそのせいで、 「渋川株式会社とは、何があっても、取引なんぞするか! あの会社のヤツと口をきくのも許さん」とまで言っていたのだ。 その会社と取引を成功させたのは笑美子一人の力だ。  どんなやりかたをしたのか、興味があった。 「口説いたって……」  頬を赤らめている笑美子を見て、最初、 なぜ、そんなに恥ずかしそうにと思ったが、 すぐに思いついた。 「ああ。そうじゃ、なくて、うちの会社を嫌っていたのに、  どうやって、取引することをOKさせたのかなって思って……」  笑美子がああっと意味を理解してますます顔を赤くさせて 「そうよね。そうよ」と頷く。 「あれはね。偶然、お孫さんと会ったのよ。  中学校の職業体験で、あの社長さんが個人で  出資している喫茶店があって、そこで、偶然、会って  アニメキャラのスマホケース使ってて、  うちでいくつか商品を取り扱っていたから  参考に意見を聞きたいって話をしたの」 「すごい。偶然だね」 「そうね」  ますます顔を赤くして見せる笑美子。 「そのお孫さんと話をしているうちに、意気投合して、  なかなか手に入らない激レアのグッズを持ってて  それを上げたら喜んで、おじいさんに取り次いでもらったの」 「偶然でも、すごいよ。さずが、わが社の誇りだって言われるだけあるね」 「あ……ありがとう」  笑美子が恐縮したように下を向いて右手で髪をいじる。  自分の手柄を、自慢げに話したりしない、  謙虚さがいいなと思っている小山。  だが、笑美子の本心は……。
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