逢う魔が刻

3/4
前へ
/14ページ
次へ
私は相手を怯えさせないように、声のトーンを抑えた。 「落とし物しましたよ。ぬいぐるみ、ですかね?」 やたらと頬骨が張っていて、顎の尖った、五角形の顔が私に向いている。 男は、「ああ」と息をした。 「いやいやいや、気がつかんかった。申し訳ない」 いったい何が申し訳ないのかは、分からない。 男は右手の手刀を立てて、こちらを拝む仕草をする。 それでいて、自ら動こうとはしなかった。 私が拾い上げて、彼に手渡すことを期待しているのだろうか。 申し訳ない、と言うのは、お礼の前払いのつもりなのかもしれなかった。 「足が不自由なもんで、」 ここら辺の言葉ではなかったが、意味は分かった。 「いいですよ。ちょっと待っていてくださいね」 私が手のひらを向けると、男は目を丸くした。 「拾って、持って行きますから。動かないでいいですよ」 男は口元をゆるめ、しきりに点頭する。 笑顔の正体は分からない。 目線で問い返すと、男は目を見開いたまま首を左右に振った。 よほど疲れている様子である。
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!

15人が本棚に入れています
本棚に追加