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私は相手を怯えさせないように、声のトーンを抑えた。
「落とし物しましたよ。ぬいぐるみ、ですかね?」
やたらと頬骨が張っていて、顎の尖った、五角形の顔が私に向いている。
男は、「ああ」と息をした。
「いやいやいや、気がつかんかった。申し訳ない」
いったい何が申し訳ないのかは、分からない。
男は右手の手刀を立てて、こちらを拝む仕草をする。
それでいて、自ら動こうとはしなかった。
私が拾い上げて、彼に手渡すことを期待しているのだろうか。
申し訳ない、と言うのは、お礼の前払いのつもりなのかもしれなかった。
「足が不自由なもんで、えらいんですわ」
ここら辺の言葉ではなかったが、意味は分かった。
「いいですよ。ちょっと待っていてくださいね」
私が手のひらを向けると、男は目を丸くした。
「拾って、持って行きますから。動かないでいいですよ」
男は口元をゆるめ、しきりに点頭する。
笑顔の正体は分からない。
目線で問い返すと、男は目を見開いたまま首を左右に振った。
よほど疲れている様子である。
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