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--母--
私には、誰にも言えない隠しごとがある。実は、家の床下に夫が埋まっているのだ。
夫とは見合いで結婚して、実家のある村から山奥のこの集落にやってきた。夫は生まれ育ったこの家をどうしても離れたくないと言って、バスで一時間ほどかかる役場に通っていた。
夫の両親が切り盛りしていた大きな家に嫁入りし、野菜を作ったり、裏で飼っていたにわとりの世話をしたりした。やがて三人の子供が生まれてからは、大自然の中での子育てに奮闘した。しかし、子供たちは成長するにつれて、都会への憧れを強くしていき、高校卒業とともに次々と家を出た。
同時期に舅姑も相次いで亡くなり、広すぎる古屋に夫と二人で取り残された。子供たちはそれぞれに忙しく、この家が不便な場所ということもあり、めったに帰ってこなくなった。他の二人の姉弟が帰ればいいと人任せにしているようだった。
かつては義父母と子供たちの声が絶えず、にぎやかだったはずの家が、今では死んだようだった。定年退職した夫との何の変化もない毎日に飽きてしまい、昔のあわただしかった日々をひそかに懐かしみながら暮らし続けた。
ある真冬の早朝、寝ていた夫が胸を押さえて苦しみ出し、救急車を呼ぼうと慌てているうちに亡くなってしまった。あっけない最期だった。「延命治療はするな」と常々言われていたので、心は痛まなかった。
葬式のことを考えると気が重くなった。義理の姉と妹があれこれと注文をつけてくることは目に見えている。子供たちも各々の生活があり、時間を遣り繰りして来るのは大変なことだろう。親族とはいえ、大人数を受け入れるにはそれなりに準備をしなければならない。手伝ってくれる夫はもういない。
遺体が腐りにくい季節だったことはありがたかった。居間の畳を一枚上げて、床板を剥がすと、そこは「土」だった。
近頃の建物とは違って、古い家は大体こういう構造だ。私の実家も同じ造りで、子供の頃、子犬を追いかけて家の下に潜り込んだことがある。子犬を捕まえて出てきたときには泥んこで叱られたものだ。
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