11.ハジメテノオハヨウ

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 シューは腰に片手を添え、空いていた右手で、びしっ、とその子を指さすと、その子の高らかに新しい名前を告げた。  シューの声がはっきり聞こえないくらい、その子の心は、まるでエラーでも出しているみたいにうるさかった。 ――……。 「。マキちゃんのあだ名は、シナモンです!」 「(わたくし)のときみたいに直感ですわね、シューさま……(わたくし)たち、すっごい甘そうな名前をしていますわ……可愛いですけれど」 「シナモン…………」  シナモン、シナモン、シナモン。  その言葉だけがループして、他が見つからない。 ――シナモン。  この名前だけは、何があっても忘れはしないだろう、これから先、ずっとずっと自分の中での初めてのだと、その子――シナモンは悟っていた。  だって、こんなにも熱いから。 「ねえ、シナモンちゃん!また明日も来るね!明日は、ちょっとお出かけしよう!」 「もう遅いですし、(わたくし)たちは帰らなければなりませんけど……また、明日。必ず来ますわ、シナモンさま」 「あっ……えっと……はい。待っていますね。シューさん、タルトさん」  シナモンに名前を呼ばれると、二人はぱっ、と嬉しそうにはにかんで、名残惜しそうに手を振りながら、骨董品店から離れていってしまう。  ばいばい、またね。 ――そう、言い残して。  ギコ……。 「……シナモンっ……」  弾んだ声とは裏腹に、二人の姿が見えなくなったくらいから、妙に空気が重たくなったような感覚があった。赤さも黒を帯び始めたせいだろうと、ほんの数分くらいしか目を離していないはずの、なんだか懐かしい海を見た。  ズッ、ズッ、と打ち付ける波の音の中に、そのうち、店の奥からおばさんの声が混じる。マキちゃんと、そう呼ぶ声は、その日の終わりを知らせる声だった。 「私……少しは近づけたかな」  答えの見つからないと思っていた問いに、ふいに答えは近づいて。  ギ、ココキ。  軋む足で、なんとなく、シナモンは海に少しだけ、近づいていた。
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