100.ニチジョウ

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100.ニチジョウ

 それからシナモンは、シューやタルトと過ごす時間が多くなった。それまで、親しい人といえばおばさんくらいしかおらず、おばさんに拾われる前の記憶のないシナモンにとっては、突然現れたこの二人との関係は新鮮だった。  それが証左に、シナモンは少しずつ、心というものについて、シナモンなりの理解を深めていた。  時に笑い合い、時に泣き合い、歌い、悲しみ、共有する記憶の数が増えるほど、シナモンの中に失いたくないものが多くなっていった。たった二文字の言葉を聞く以前なら、何も理解できず、その感情がどんな色をしているのか分からなかっただろうシナモンは、新しく出会う一つ一つの気持ちに名前を見つけていった。  いつしか見るのが習慣になっていた窓越しに眺める街の景色は、忘れようもないあの咲きかけの笑顔を思い出し、忘れようもない言葉をもらった瞬間から共に過ごす友達と話し――そんな時間に変わっていた。  やがて、潮風に交じって聞こえてきていた空気を揺らす短命の合奏がやみ、その風に仄かに甘い香りと赤や黄の葉が乗せられるようになっていった。それだけの季節を、三人で過ごす中で、シナモンの変化は確実に表に出てきていた。
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