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その子の声には気づかず、何かひそひそと話し始めてしまった。入り口からほんの少し入ったところからほとんど動かず、店内に背を向け、しゃがんで耳打ちし合っている二人は、見ようによってはこれから盗みに入ろうとしているようだ。
「あ、あの……お客様?」
「ひえっ!?」
「きゃあっ、ですわ!?」
「……何かお探しですか?」
その子は、、二人のすぐ背後にまで近寄ってもう一度、何度となく繰り返したことのあるその言葉を口にした。しかし、不審者でも見るような目と声色で言ったのは、これがはじめてだった。
二人にとっては出し抜けにかけられた呼び声に、よほど驚いたのか、シュー、と呼ばれた淡い茶色のポニーテールの少女と、栗色の長髪の少女は、それぞれに悲鳴を上げ、その場を飛びのいていた。
「な、なんであたしたちに気が付いたのっ。あたしたちの擬態は完璧だったはず……!?」
「そ、そうですわ……」
追い詰められた悪役みたいに後ずさる二人の疑問に、その子はなるほど、と内心納得していた。おばさんからは二人は見えていないはずなのだ、それに気が付くとはさすがおばさんだ、と。
「擬態……とは、何のことでしょう。探し物の際は、何なりとおっしゃってくださいね」
ギ……。
その子は、二人を刺激しないように柔らかく、首を傾けて慣れない笑みまで浮かべたつもりが、少女たちは再び耳打ちをはじめた。
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