10.カイソウ

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10.カイソウ

 おばさんがを拾ったのは、町の隅の、誰も気が付かないような場所だった。その近くには、大きいスクラップ場があることもあって、人間が近づくことは少ない。そこを彼女が通りかかったのは、全く偶然の事だった。  その子の体も、心も、ボロボロに傷ついていた。放っておくことなどできやしない。おばさんは、言葉すら忘れてしまったその子をつれ、今と同じ場所にある骨董品店に戻り、介抱し、共に住まないか、と持ち掛け――。  それが、今から数年前の話だった。  はじめのうちは、人と話すことすらできなかったが、ある時期を境に、店を手伝わせたところ、それからは少しずつ話せるようになってきた。だが、体の方はそううまく回復しなかった。それが、今の車椅子の経緯である。  完治は難しいと、馴染みの業者にそう宣告された頃には、はまだ店も手伝っておらず、口もきけない状態だったが、それでも一言、「そっか」とだけ呟いた事を、おばさんは数年経った今でもよく覚えていた。  それから、治らなかったものがもう一つある。いや、これは治らなかったというのは適切ではないのかもしれない――その子は、人の心が理解できなかったのだ。それを理解できるようにするためにも、店の手伝いは機能していた。もっとも、「理解したい」と言ったのはその子の方からで、おばさんはしいて理解するように働きかけようとはしていなかった。  そして、数年の時が経ち――。
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