10.カイソウ

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 その子にとっては未だ、その心の色合いを答えることは難しかった。  ぼんやり見つめる海の先。けれど、視線の向こうにあったのは、黄昏にやってきた過去でのおばさんとの記憶と、今しがた視たほんの少し未来の出来事だった。  ふとしたことから、その子は未来を視られる事に気が付いた。店を手伝い始めてから数週間が経過し、仕事にも慣れたころ、はっ、と店内にいるおばさんを見ると、高く積まれた遺物に下敷きになっていたのだ。  はじめこそそれが現実だと錯覚し、急いで助け出そうとしたが、それからすぐに別の異変に気が付いた。今までに経験したことのないような酩酊感が、全身に付きまとうようにして訪れたことに。ふらつく体を暫く車椅子にもたれかけさせていると、おばさんから安否を問う声をかけられ、目を見開いた。白昼夢にしては伴う現実感の強かった幻想に不安になり、その子はおばさんを外に連れ出していた。  店内で骨董品の山が崩れたのは、それから数分後だった。  その子は、おばさんにもこのことは言っていなかった。その子自身、自分の力のに恐れるものがあったから。  それからも、意図しないふとした瞬間に、幾度となく未来を垣間見た。あるいはおばさんの時のように自分以外の誰かの命に関わる未来であったり、あるいは今日のような他愛もない未来であったりしたが、一貫していたのは、それがほんの数分後に起こる出来事である、という事。  結果は、変えることができない。  それでも、おばさんの時や他の時のように、些細な変化は起こり得る。けれど、そこにその子の意志がなければ、決して変わることがない。おばさんを助けるという意志が、彼女を下敷きの運命から救った。崩落を防ごうという意志はないから、実際に山は崩れた。 「分からない……」  この力の所以も、知りたいと思ったことにも。  まだ答えは、見つからない。
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