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11.ハジメテノオハヨウ
「おーい、マキちゃん!今日はもう店じまいにするよ!アタシは奥でやることがあるから、マキちゃんはもう少し外で待ってて!」
「……あ、はい、分かりました」
飛んで行った意識を連れ戻したのは、聞きなれたおばさんの声だった。その声が告げるのは、しかし、今日に限っては閉店の時間ではないと思った。
なぜって、それは……。
「……あ、あの、マキ……ちゃん?」
「さっきはありがとうございましたわ。シューさまがもっとしっかりしてくだされば……」
「ち、ちょっと、タルト!タルトだってびっくりして動けなくなってたでしょ」
「そ、それはシューさまが……!」
「……ふふ」
あっ、と、二人の少女が口論をやめたのは、小さな笑い声が聞こえてきたから。
なぜって、今日は、この二人が店の外に出てくるから。そこで、二人に会うから。そんな五分後があると知っていたから。だから告げられたのは、変えたくないと思った未来が始まる時間だった。
「ごめんなさい、だって先ほどもそんな風にしていたから」
今度は、シューの方よりも、タルトというらしい栗色の長髪の少女の方が慌てていたため、その子は笑ってしまった言の謝罪を込めて軽く会釈していた。
――なんで……笑ったんだろう、本当は。
ギ……。
「あ、いいよ、マキちゃん……あたしたちがそっちに行くから」
「すみません、騒がしくて」
「……ええ」
その子が二人の方に動こうとするのを、シューは手で制し、タルトと一緒にその子のすぐ前まで歩いてきた。改めてまじまじとシュー、タルトというらしい二人の姿を見てみると、どこかの学校の制服を着ている事に気が付いた。風貌から、どうやら二人は学生らしいことが分かった。ちょうど、その子と同じくらいの年齢だろう。
ト、タン。
「あたしの事は、シューって呼んでね!近くの学校に通ってるんだ!」
二人してその子の前に並び、シューが右手を胸に、左手を前に差し伸べるようにして自己紹介をすますと、次はタルトの番ね、と軽くタルトと手を叩いた。パン、という小さな破裂音の後に、タルトが風に流れた栗色の長髪を耳の後ろに払いざまに、
「私の事は、タルト、とお呼びくださいまし、マキさま。私も、シューさまと同じ学校ですのよ」
二人ともしたり顔でめいめいに自己紹介をすますと、何かを期待するような目でその子を見つめた。
じい……。
「は、はあ……」
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