神様の落としもの

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都内の下町に、貧乏で体調も良くない老夫婦がいた。 おじいさんの名は洋三といい、細身で小柄の白髪だった。 おばあさんの名は幸子といい、こっちも細身で洋一より少し低かったが、頭髪はメッシュだった。 二人は六十代の後半で、性格は明るかった。 しかし若い頃から健康に恵まれなかったためか、子供も財産も無かった。 ある時、趣味である散歩に二人は出た。 そして自宅から十分ほどの所にある、神社の前まで来た時、洋三が、ふと足を止め、 「わしら、これまで貧乏だったな……」 「ええ……まぁ……」 「せめてこれからの余生を幸せになれるように、神様にお願いしないか?」 すると幸子も笑顔で、 「そうですね。そうしましょう」 かといって二人は、神主にご祈祷してもらうほどの持ち合わせも無かったので、お賽銭(さいせん)を入れて、合掌し、 (私たち夫婦が、幸せになりますように……) と共に、心で唱えるのみだった。 その後も、その神社でのお参りが、二人の散歩の目的となった。
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