希望の色を咲かせ給え

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 私は絵描きになりたいと思ったことがある。幼いころ、父方の爺ちゃんのアトリエに毎日のように通い、そこに立てかけてある背丈以上のカンバスに描かれた油絵たちをよく眺めたものだ。情念を揺さぶられるような赤色。海に閉じ込められたかのような鮮やかな青色。そこに広がる街の景色。爺ちゃんの絵には抑圧された感情が閉じ込められているかのようだと画家仲間は言った。  でも、私にはその絵が「完全には」見えていない。  だから、私は絵描きの道を断念した。もう十年以上前の話だ。
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