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Ⅰ 世界よ、我に跪け!③
人類よ、聞こえるか。
この足音が。
お前達の滅亡への第一歩だ。
衛星・月落下により、地殻は変動する。
地表の90%は爆発と衝撃波、及び津波により消失。
月をなくした海は潮のコントロールを失い、牙を剥く。人智を超える高潮が各地で起こり、多くの島が大海に飲まれる。
異常気象による飢餓、疫病による二次被害がこの後、数年に及び発生する。
劇的な気候変動を起こした地球で生きられる生物は、5%に満たない。
無論、人類も例外ではない。
月は地球の引力に引かれている。
片割れを無くした地球は、孤独な存在となるのである。
衛星軌道上にシャトルを発射し、ラグランジュポイントを一時的に消失させる。
引力の均衡を破り、月を地球衛星軌道上まで引き寄せれば、後は勝手に地球の重力に引かれて、大気圏に突入し地表に衝突する。
この世界で最も美しい燃え盛る火の星を、地上の人類は目撃するだろう。
(だが……)
盲点だった。
この星には、まだ宇宙力学と呼べるだけの確固たる理論が成立していない。
この星には月を落とすに至るテクノロジーがないのだ。
地球は宇宙力学後進星である。
辺境惑星攻略にあたり、人材という最大の戦力を持ち合わせていない。
俺は、単身この星に乗り込んだのだ。
普段は地球人の外見を保ち、地球人に紛れて……
有能な人材は現地確保する。
(お前が欲しい)
各務 隆哉
この計画の成功には、お前が必要不可欠だ。
各務、お前はこちら側に来るべき人間なのだよ。
地球人にしておくには勿体ないほどの頭脳だ。
「エルドバード」
「はっ」
通信ランプが光った。
ディスプレイの中の銀髪の男が、膝を折る。
「もう一度、接触する」
「くれぐれもお気を付けて。辺境惑星の民です」
「心配には及ばん」
滅亡への足音を足踏みさせる訳には行かぬ。
(どのような手を使っても)
ルフラン家は由緒ある貴族だ。
伯爵の位に傷を付ける事は許されない。
必要なのは、あの男の才……
「薬が効かない……なんていう事はあるのか?」
「あり得ません。あの薬を飲んだ者の意識は奪われ、傀儡と化します」
「では、なぜ。あの男に薬が効かなかったのだ」
「そのような事は……実験では98.57%の成功を得ております」
「では、なぜ……」
我が国は薬学も革新的な飛躍を遂げている。
(そういえば、あの男)
飲みかけだったな。
(コーヒー、全部飲んでいなかった)
薬を混ぜた飲料だ。
(量が足りなかったという事か)
「まぁ、いい。もう一度試してみよう」
「あれには解毒薬がありません。くれぐれもご注意を」
「過保護ではないか?エルドバード」
俺が間違えて、自ら飲んでしまうとでも?
「はっ、失言でございました」
まぁ、いいさ。
俺も初めて扱う薬だ。量の加減というものが分からなかった。
「次は確実に全部飲ませるさ」
そうと決まれば、行動は早いに越した事がない。
「お前は本国の様子を逐次知らせろ」
「はい。現状、問題ございません」
「辺境惑星制圧を手土産に、俺はルフラン家次期当主になる」
「御意」
では、接触を図ろう。
(お前を、俺のものにするぞ)
各務 隆哉
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