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プロローグ
力任せに千切られ、数本の血管がダラリと垂れ下がった人間の前腕部にかぶり付く。生肉に歯を深々と喰い込ませて、思いっきり引っ張り、鮮血を飛び散らせながら、肉を引き千切り、クチャクチャとガムでも噛むかのように何度か噛んでから、胃袋の中へと流し込む。
悪霊に取りつかれてしまったかのように、生肉の弾力を噛みしめる時の蕩けるような感覚を楽しみながら、人間の肉を生で貪るのだ。
堪らないね。
適度な塩味と錆びた鉄の臭さのような苦みが、至福の一時を作ってくれる。
何度噛み締めても飽きの来ない感触に心を奪われてしまうのだ。
肉の削げ落ちた骨を暫く見つめて、笑みを浮かべてから後ろに放り投げる。コンクリートに当たり、高い音域の金属的な感じの音が暗闇を切り裂くかのように響く。
私の隣で、顔を黒いボロ布で捲いている図体のやたらと大きいプロレスラーのような男が、私と同じように人間の肉に貪る。
グチャグチャと下品な音を響かせ、人間の肉に必死に食らい付き、鮮血を飛び散らせながら、肉を食い千切った時に、飛沫のように飛ぶ細かい肉片を、周りに散らせていく。
「そんなに慌てなくても、逃げやしないだろう。殺したのはお前だぞ」
話しかけても、私の言葉はその男の耳には届かない。食べることに必死なのだ。一つの事にしか集中することが出来ない不器用な奴なのだ。
仕方ないか……。
私のお兄ちゃんだけどね……。
私達は人間を食べていかなければ、自分の身体を維持していくことが出来ない不便な存在なのだ。
自ら望んでこんな身体になった訳ではない。
何でこうなってしまったのだろう。
自分でも分からない。
理由が分かれば、元に戻れるのかな……。
いくら考えても答えには辿りつけない、虚しくなるだけの問い掛けでしかないけどね……。
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