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雪解け
後日、春の近づいた暖かな日だった。俺とマルチノは僧院から離れた羊小屋で二人きり、各自の仕事をしていた。俺は羊を押さえてはさみで毛刈りをして、マルチノは藁を積み上げている。
「とんだ騒動だったな……。結局、剃ったのは一体誰だったんだろう」
独り言のようにそう言いながら、俺は不思議な気持ちだった。今までの僧を剃っていたのは俺だ。だが、最後の僧を剃ったのは自分ではない。
危機一髪のところで助かったが、しかし一体誰が?
藁の山を前に、マルチノは俺を振り向かずに背中を向けて話し始めた。
「最後のトンスラを剃ったのは、僕なんだ。フーゴ」
「何だって」
羊を刈る手が、思わず手が止まった。マルチノを見たが、彼はこちらを振り向かないままうつむき、囁くように告白を続ける。
「君と謎のトンスラ剃りを会わせたくなかった。君が謎のトンスラ剃りにやけに詳しいから、僕は嫉妬していたんだ……」
マルチノは身体ごとこちらを振り向いた。その顔は泣きそうで、自分のしたことに動揺しているようだ。
「君を想うと胸が苦しくて、たまらなくて……」
「マルチノ……」
小さく震えているマルチノは、自分で自分の肩をにぎっていた。
「それで、君が厠に立った隙に、我慢出来なくて僕がダビデを……」
思いつめた顔をして話す、マルチノの告白を、衝撃的な思いで聞いていた。
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