第五話:俺の恋人が可愛くて正直しんどい

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第五話:俺の恋人が可愛くて正直しんどい

 文化祭の準備も佳境に入り、学校全体が本番に向かって浮足立って見え始めた頃。委員会を終え、書庫の鍵を返すために職員室を訪れると、同じくらいのタイミングでスクールバッグの外ポケットに入れておいたスマホが震えた。  委員会があり遅くなる日は泰正に予め伝えてあるし、泰正自身は勤務中に連絡を寄越してくることがほぼない。そうなるとメッセージの主は月冴だろうか。彼も彼で部活があり今日は別々に帰る予定のはずだが……職員室を出てから近くにある階段を降り、最初の踊り場で立ち止まると端の壁に背を預ける。  ポケットからスマホを取り出し、画面をタップした。通知一覧からメッセージをタップして開くとやはり相手は月冴で、〝このメッセージに気がついたら教室に寄ってほしい〟と書かれていた。  昇降口ではなく教室を指定してきたということは、とうに部活動は終わっているということだろう。運動部は部活終了時間きっかりまで活動しているものと思い込んでいたから、珍しいこともあるものだと首を(かし)げる。 (教室って……教室でなにかあるのか?)  メッセージの真意をあれこれ考えてみるも、日中特にこれといったこともなく、月冴もなにも言っていなかった。訳が分からぬまま、教室へと向かう。  渡り廊下を通り、階段を登り、ようやく通い慣れた教室の前へ辿り着くと、その気配を気取られたのか、教室の中で人影が動いた。がら、と戸を開けて目の前に現れたのは、昭彦だった。 「おかえり」 「昭彦……おかえり、って、こんなところでなにしてんだ?」 「なにって、尚斗が来るの待ってたんだぜ? 月冴からMOIN(モイン)いっただろ?」 「あぁ、さっき来たけど……」  月冴からのメッセージと、昭彦が俺が来るのを待っていたことと、なんの関係があるのだろうか。 「前にオレが言ったこと覚えてるか?」 「……なんだっけ?」 「〝衣装合わせの時は、オフレコで呼んでやる〟って言ったろ?」 「あぁ……そういやそんなことを言われたような?」 「今日、衣装合わせの日でさ。まぁそういうこと」  つまり、過去にした約束は果たされたというわけだ。それならばもっと早くに言えば良いものを。 「昼間のうちに言っとけよ」 「それじゃつまんないだろ? こういうのは、いきなりやるから面白いんだぜ?」  俺がすでに下校していたらどうするつもりだったんだ──そう喉まで出かかった台詞を、どうにか心の中だけで思うに留め、飲み込む。  これは所謂(いわゆる)、俺に対するサプライズだ。それ以外に他意はない……と思いたい。 「出てきていいぞー」  昭彦が背後の戸に向かって呼びかける。  その向こうで僅かに気配が動いて──がら、と鈍い音と共に戸が開かれた。夕日が差し込む教室──開け放たれた戸を背にして現れたのは、月冴だった。
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