許容範囲

6/6
前へ
/6ページ
次へ
夫の努力の証である運転免許証を眺めながら、私は浮かれている夫に水を差した。 「ねぇ、真面目な話。今の幸せを天秤に掛けてもリスクのある道を選ぶわけ?この証だけでは満足できない?」 このタイミングで切り出せば、流石に怒るかもしれないけれど、私はこれを最後に腹を括ろうとしていた。 「……あれやっとけば良かったなって、最後にガックリきて終わりたくない。きっと、男の性なんだよ。身勝手なのはさ」 私はそうだねと、頷いた。 「あなたはそれでいい」 そういう彼に惹かれたのは私の責任だ。 「けど、一つ約束して。子供は絶対に後ろに乗せないで。たとえ、乗りたいとせがんでも乗せないで」 きっとそれは、夫の夢の光景のワンページにもある画だったに違いない。『親父と息子』なんて、よくある構図だ。 「……わかったよ。でも、多分あいつも大きくなったら乗りたがるよ」 そこは子供の意思だ。もう、護る義務も果たし終えた後のことだ。 「あなた一人なら私は私を許せる。けどもし、あなたが子供を事故に巻き込んだら、絶対に、絶対に自分を許せないから」 想像に涙を溜める私に夫は頷き、ふわりと私を抱きとめた。 「他に隠し事は無いでしょうね?」 夫がこれほどバイクに焦がれていることを知らなかったとは、妻として不覚と言わざるを得ない。 「無い、無い。奥さんに頭が上がらんってことくらいだよ」 どの口が言うかと、私はひと睨みする。 「さぁ、バイクを買いに行きましょうか」 契約ごとには疎い夫だ。保険関係にせよ、ここからは私の出番だろう。 fin.
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

19人が本棚に入れています
本棚に追加