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黙祷
早朝、教会へ着くと私は神様の御前で30分黙祷した。
いかに願えば、この身勝手な欲望から逃れることができるか。
すなわち迫りくる死への恐怖から解放されることができるか。
『自分はまだ死にたくない』という私利私欲を背負っている限り、リンドヴルムは現れない。
与えられた命を真っ直ぐに燃やし、その炎で周囲をあたためる。
私が燃やせる炎は音楽。
このパイプオルガンで人々の心をあたためることができれば。
それだけを心の底から願うのだ。
『そうすればリンドブルムが現れ130年の人生を全うできる』
という身勝手な欲望を消し去りたい。
だが13歳の未熟な私には、その方法がわからなかった。
私は、ただひたすら目を閉じて神様にお祈りした。
毎朝、自分の至らなさが悔しくて涙を流した。
冬の朝だった。
真っ白い息を吐きながら礼拝堂で涙を凍らせていた私の手のひらに、神父様は一枚の茶色い枯葉をのせた。
「この押し葉をプレゼントします。これは私がダニエルと同じ13歳の時、私の祖父からプレゼントされました。祖父はまた、その祖父からプレゼントしてもらったのです。つまり、この押し葉が青かったのは二百年も前、あるいはもっと昔のこと。ダニエルが今、練習しているバッハの曲が作られたのは、それよりさらに昔、三百年も前です。その曲が、今も私たちの魂をあたためている。青葉の時間は短い。けれども青い時間に貫いた意思は永遠です。」
私は自分の聖書の真ん中に押し葉を挟めた。私はまつ毛に凍り付いた涙が溶けるほど新しい涙があふれた。
神父様の優しい眼差しに、自分の胸の奥に赤々と燃える炎を照らし出したいと思った。
十字架で磔を受け入れているイエス様の姿が、初めて愛おしく見えた。
私はオルガンに向かい、シューベルトの「アヴェマリア」を奏でた。
私の魂は遠くに光を見出だした。
長さではない。
生き様なんだ。
命の底に眠る愛の泉を惜しみなく開放するんだ。
今、この時、人を愛することに懸命であればよい。
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