シリンクス

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シリンクス

 ジュマはオルガンの名手で、私は彼から鍵盤楽器の楽しさを教わった。ジュマはドビュッシーの音楽が好きで、特に『シリンクス』のメロディーを異常なまでに愛していた。    その静謐で神秘的なメロディーは長い間、私の精神の一番奥深い行き止まりに響き続けていた。何を考えても感じても、つらい日も楽しい日も、一日の終わりには必ず『シリンクス』の波長が心を満たした。  ジュマはまた海で泳ぐことが好きだった。私はジュマにすべての泳ぎ方を習った。素潜りが得意だったジュマと一緒に海の中を探索する時間、私は自分が人間であることを忘れた。  海の底ではいつも『シリンクス』が背骨の中に響いていた。  音楽の秘めた力を身体でエネルギーに変える方法を訓練するために、ジュマは骨身に染みる一曲を選んでいたのかもしれない。  
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