ジュマ

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   ザンジバルの美しい海岸に座り、ジュマと二人で海を見ていた。    夕暮れのオレンジ色の光に包まれた二人の影が細長く白い砂浜に伸びていた。 「これから僕のする話。一度しか話さないから、よく聞いて。」 ジュマはいつになく深刻に私を見つめた。  私は息を殺すようにジュマの話に聞き入った。 「僕の命はもうすぐ終わる。リンドブルムに出会う方法。これは僕にもハッキリわからない。僕には兄が二人いた。彼らは18歳の時、背中の痣から体が腐り始め命を落とした。どうして兄さんたちはリンドブルムに出会えなかったのか。僕は幼い頃から教会でオルガンを弾いていたので、まず神父様に相談した。神父様は親身になって考えて下さった。そして、こう仰った。」  ジュマは海鳥たちが舞い遊ぶ沖を見つめ、シリンクスのメロディーを口笛で吹いた。その口笛の美しさに魅了され海鳥たちが集まって来た。  海鳥に囲まれて微笑みながら、ジュマは静かに語った。 「どんな生きものであれ命あるものは、自分の愛するものを大切にしたい。あなたは、ここでいつも美しい音楽を奏で皆に愛されています。人に大切にされる人でありなさい。人を大切にする心を磨きなさい。すべての命に美しく響く音楽を奏でなさい。真っ直ぐに清らかでありなさい。それでもリンドブルムに出会えないなら、そのような竜に出会う意味はありません。イエス様と同じように天から与えられた運命を受け入れることです。」  海鳥たちがいっせいに飛び立った。  驚いて私は空を見上げた。  その一瞬の隙に私はジュマの姿を見失った。  すぐ隣で海を見ながら話していたのに。  まるで蜃気楼のようにジュマは消滅した。  ジュマが着ていた白いシャツと青い短パンが砂の上で風に吹かれていた。
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