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ショパンとアーロン
私はジュマの遺言ともとれる最後の言葉を、いつも心の中で噛みしめていた。
『人に大切にされる人でありなさい。人を大切にする心を磨きなさい。すべての命に美しく響く音楽を奏でなさい。真っ直ぐに清らかでありなさい。それでリンドブルムに出会えないなら、そのような竜に出会う意味はありません。イエス様と同じように天から与えられた運命を受け入れることです。』
私は父に一頭の牡馬と、馬の世話をしてくれる人を見つけて欲しいと頼んだ。
父は驚いたように目を見開き
「他には?」
と尋ねた。
「それだけでいいです。ここにはオルガンもピアノもある。電気もあるしネットもつながる。何も必要ないよ。」
私はそう答えた。
父はさっそく私のために毛並みの美しい若いトラケナーの牡馬と、その世話をしてくれるアーロンという父よりも年上の男性を古城へ呼び寄せた。
アーロンは馬の世話だけでなく、私の食事や身の回りの世話をしてくれた。
アーロンは言葉遣いや身のこなしから、深い知識をもった学者か医者のように思われた。料理の腕前は素晴らしく、古城の台所に備え付けられた大きな石窯でパンやピザを焼いた。オルガンやピアノの調律までできたし、フルートを演奏した。
人里離れた山間の湖のほとりに佇む古城の夜は静かで、私はたびたびアーロンに「シリンクス」をリクエストした。
アーロンの奏でる「シリンクス」は月の光さえ射し込まない古城の夜の暗闇そのもののように幽玄な波長を生み出した。
アーロンのフルートは神の眼差しのような崇高さで私の魂を慰めた。
アーロンは、こちらから話しかけない限り寡黙な男だった。
私は彼に、リンドヴルムの話をした。
ジュマから聞いた伝言を守り、人を大切にする心を磨くため、普通に学校へ通い真面目に生活することでリンドブルムに出会えるのではないか、という自分の考えを聞いてもらった。
話を聞き終わるとアーロンは私の手をとって大きな彼の手で温めながら、こう言った。
「ダニエルさまの考えは素晴らしい。ただ一つ。ダニエルさまにしかできないことを身に着けるべきです。ダニエルさまは地球で最後の竜の遺伝子を持つ特別な人間です。その遺伝子の優れたオーラを開花させなければなりません。ダニエルさまには神様から与えられた大切な仕事があるはずです。」
私は牡馬にショパンと名前をつけた。
私はショパンに乗って毎朝、古城から7キロ離れた田舎町にある学校へ通った。学校が終わると教会へ行き、教会の庭や礼拝堂の掃除をさせてもらい、パイプオルガンを弾かせてもらった。
ショパンは私が学校に行っている間、神父様に預かった。神父様はショパンに乗って出かけることもあったが、何もない日、ショパンは教会の裏に広がる野原で自由に時を過ごしていた。
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