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第四部
「あつーい!」
部屋の中で一人叫ぶ。それと同時に汗が滝のように噴き出した。
前回来た時から二十日ほど経っている。真夏にクーラーもつけずに、それだけの期間留守にしていたのだから、部屋が地獄になっていてもおかしくない。
外ではヒグラシが鳴いていた。メガネをかけてもいてもなお、照りつける太陽の日差しが刺さるほど眩しい。窓の外は雲ひとつない快晴だった。
机の上に置いてあるクーラーのリモコンを手に取り電源をつけると、心地よい風が流れてきた。しばらくその風で部屋と身体を冷ます。
表に戻って、早一分。裏は快適だったんだな、と痛感させられた。
私は今抜けてきた鏡に向き直り、自分の姿を見る。オーロラの虹色レンズのメガネをかけているので目までは見えない。だから今、自分がどんな目をしているのかがわからなかった。
私の目はほぼ死にかけているので、メガネは外さない方がいい、とガラクに言われた。わざわざ危険を冒してまで現実を見る必要性も感じられないので、そのまま視線を落とした。
メイから貰ったブローチが目に入った。以前外したままその場に置かれている。私はこのブローチをどうすべきか悩んだ。
思い出すと、裏街道で襲ってきた少女も同じものをつけていた。少女がつけていたものをメイが所持していた理由。ブローチに付着していた血痕や、彼の二面性を知ったことにより、具体的に何があったのか想像ができてしまう。
今考えると、あれを機に襲われることはなくなった。もしかしたら、私に余計なものを見せない為に、メイが計らっていたのかもしれない。
メイは意外と鋭い。あのガラクでさえ失言を誘うほどだった。しかし、それだけ周りの目を気にしているともとれる。十歳も満たない歳であるだけにとても残酷に映った。
また私の身体もこの街に適応していくことで、都合の悪いものは見えていなかったのかもしれない。
考えても答えが出るわけじゃないし、永遠答えを知ることもできないんだ。思案を終了して、室内を見回す。
がっぽりと本のなくなった本棚が視界に入った。そこに収納されていた本は、今は裏街道にある。かなりの量を持参したが、ガラクに合う作品はあったのだろうか。
あれだけネタバレを嫌がっていたのは、もしかしたら、表に戻った時の楽しみとしていた、取っていたのかもしれない。
大きさなんて関係ない。どんな些細なことでも、目的や期待をたくさん持てるだけ、生きる希望が見えるものだろう。
これは逆の立場の人間による見解だが、そうだとしたら、本当に申し訳ないことをしてしまった。
今までは、必要なピースしか揃えずに、パズルは未完成のままだった。しかし、少し考えを巡らせるだけでこれだけ埋まり、絵が完成するんだと知ることができた。
今まで面倒だからと避けていたこと。だが、案外おもしろいものだな、とも思った。
一日過ごすと言ったが、具体的に何をするのか未定だった。クーラーの風に当たりながら頭を働かせていると、突如何かが鳴った。
音の発生源がお腹だと気づいた時には、ものすごい空腹感が襲った。裏街道にいた期間を考えても、ずいぶん長い間、食事をしていない。
まずは何か食べよう、そう思って私はリビングに向かった。
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