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レンタルショップに向かっていた。特別やることも思いつかなかったので、ガラクの出ている映画でも観てみようと考えた。
他に借りた小説も検索してみたのだが、どれもメディア化されていて、さらにガラクが出演している作品ばかりだった。
裏街道に来る直前に所持していたのか、小説が裏街道に持ち込まれた経緯まではわからないが、借りた本の所持者がガラクだということには違いない。
ガラクは芸能界の仕事をしていた結果、妬まれることになり裏街道に来ることになってしまった。辿り着いた当時は、過去が受け入れられず、雑誌に映る自分でさえ目に入れたくないほどだったのかもしれない。
しかし、検索で出てきた映画の告知に映る彼は、どの作品でも熱意が感じられ、ひとつの作品に全力で取り組んでいたんだなと伝わった。だから決して、仕事が嫌いだったのではないのだろう。
読み聞かせの時にも感じた。ガラクは、元ある作品を更に色づける才能がある。そして、生み出された作品に対して敬意を払い、とても慎重に、大切に扱っている。
好奇心もあるが、それ以上に、彼が大切に創り上げた作品を純粋に観てみたいと思ったのだ。
腕時計を見る。午前十時三十分を指していた。
レンタルショップまでは、家から徒歩十五分ほどの場所にある。散歩がてら徒歩にしたが、日差しが強く、額から汗が止まらないので、自転車にすればよかった、とすでに後悔し始めていた。
私の隣を水泳バッグを所持した小学生数人が、元気よく走っていく。暑さなんて気にも留めずに、パワフルで明るい笑顔で駆けてく姿を無意識に重ねて見てしまう。
アスファルトが熱されて、陽炎が揺らめいている。照りつける太陽に、晩夏を知らせるヒグラシの声。お盆が過ぎて仕事が再開し、道路は車で少し渋滞していた。信号が変わり、待機していた人たちが一斉に歩き出す。どこかで自転車の急ブレーキをかける音が響いた。
表はこんなに騒がしくて忙しない街だったんだ、と改めて気づかされた。
裏街道に帰るのは、明日の九時。眠る時間を考えても、見られる作品は多くても三~四本が限界だろう。ちょうど借りた小説の数も四作品だった。
夏休み期間だからか、「キャンペーン」と書かれたのぼりに目をやりながら店内に入る。
目的の作品は、どれも十年以上前の作品の為、陳列されている本数も少ない。新作のように目に見えてレンタルされていなかったが、何本か空の箱を見つけて、今でもガラクはみんなに見られている人物なんだな、と口元が緩んだ。
運良く、目的の作品全て在庫があったので、それらを持ち、カウンターまで向かう。
ずいぶん前に作成したレンタル店のカードは、とっくに使用期限が切れていたので、まずは更新手続きを行った。
手続きの途中、私の借りる作品を見た店員が「城陽我楽……好きなんですか?」と尋ねてきた。確かに、四本ともガラクが出演している作品だ。
「いや、そういうわけではないんですが……偶然」
気恥ずかしくなってそう答える。
「彼、将来期待していたんですけどね、引退って聞いて、とても残念だったわ」
店員は、苦笑しながら言う。
店員はガラクと同世代の二十代後半のように見える。当時の彼の活躍をこの世界で見ていたんだろう。
「ガラ……城陽我楽……有名だったんですか?」
「知らないんですか?て、まぁ、あなた高校生だもんね。もう十年以上前になるから仕方ないか」
更新手続きの書類に書かれた年齢を見たのか、私が高校生だとわかった瞬間に口調を崩す店員。そっけないよりかは、好感が持てるので気にしない。
「ドラマに映画にCM……テレビで見ない日はなかったよ。だから当時は、急な引退に芸能界が衝撃を受けたの。でも学業に専念したいってことだから、周りも何も言えなくてねぇ。まだ十代なのに大人びた外見だったから、将来有望だと思っていただけに、やっぱりショックだったな」
当時を懐かしむように店員は語る。
メイもテレビで見ない日はなかったと言っていた。それだけ凄い人だったんだと改めて実感した。
カードの更新が終わったので、次はレンタル手続きを行った。
「レンタル期限は、七泊八日でいい?」
「あ……えっと……二泊三日でいいです」
そう言うと、店員は無言で私を見た。レジ横にある『七泊一本、百円キャンペーン 』と書かれたポップが目に入る。
今はキャンペーンで、七泊の方がレンタル料が安い。なのに何故、わざわざ期間が短くて料金の高い方を選択するのだ、そう目で訴えられている気分だった。
「いや……あまり長いと返すのを忘れそうで」
言い訳のように呟く。そもそも、七日先まで生きている保証がなかった。
「すぐに返却してもらったら大丈夫よ。七泊の方が料金お得なので、こちらにしておきますね」
そう言うと店員は、私の返事を聞かずしてレジを打つ。
変に二泊を押しきっても怪訝に思われるだろう。そのまま表示された金額を支払って店を出た。
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