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ガラクの足が心配だった。裏街道では自然治癒が望めない。だから薬の効能に期待するしかなかった。
だが、私が治療に使用したのは、コンビニで売っている、どのケガにでも使用できる薬の為、ほぼ応急措置としかなっていないはずだ。
裏街道が誕生した時期よりも、今の方が薬も進化しているだろう。救急箱から傷に効きそうな薬を適当に見繕った。
時計を見ると、八時四十五分だった。戻るまであと十五分ある。そう判断した瞬間、急いで階段を駆け上がって部屋に入る。
机にDVDと花の入ったコップ、救急箱から取った薬を置く代わりに、財布を手に持ち、外に飛び出した。
自転車で五分もかからない距離に、二十四時間営業の薬局がある。財布の中を覗き、一万円札が二枚あると確認すると、きず薬や消毒液、ガーゼ、サポーターなど、値段を見ずにカゴに放り込んでいく。
慌ててレジに向かったことと、カゴに入っている品からも、レジの店員さんも気持ち急いで対応してくれた。
部屋に戻り、財布を机に置く。
DVDのレンタル期限の書かれたレシートを確認すると「二○一九年九月四日 午前九時」と書かれていた。明日、帰って来た時に返却しなければ。
購入してきた品が入った袋に、救急箱から取った薬を入れる。エアコンも切り、準備が整った後、鏡の前に立った。
メガネをしているから表情は読めないが、以前より背筋が伸びていた。堂々と地に足をつけ、まっすぐに前を見据えているので錯覚かと思った。
そんな自分を誇らしく思い、鏡に身を乗り出した。
鏡と通じている謎の暗い空間に出ると、表に帰る時とは違い、真っ暗な空間に戻っていた。
一人で抜けられるか心配だったが、前方を見ると、すぐに出口のようなものが見えた。足元など気にかけずに、光を目指して駆けていた。
出口を通ると、いつもの裏街道が一望できる場所に出る。
今かけているメガネは、表の人間の目のようなものだろう。辺りは裏街道に初めて訪れた時のようにとても暗く感じた。メガネを外しても景色は変わることなく、暗いままだった。目が生き返ったんだ、とはっきり実感することができた。
だが逆に、周囲を認識することに時間がかかった。隣のベンチにガラクが腕を組んで座っていることにも中々気づけず、そのおかげで肩を飛び上がらせることになった。
私が裏街道を発つ際も、ガラクはベンチに座っていた。もしかして、ずっとそこにいたのだろうか。
しかしガラクは、私の存在に気づく様子はなく、微動だにしない。
「ガラク……?」
呼びかけても返答がない。
心臓が高鳴り不安を煽った。
心配になり、屈んで顔を覗き込むと、———驚くべきことに、眠っていた。
「珍しい……」
ガラクが眠っている姿は初めて見る。
ここを発つ前、いろいろなことがあった。ガラクはケガまで負った。普段あまり行動しない彼にとったら、相当なエネルギーを消費したはずだ。それに、私がいなくなったことで気が抜けたのかもしれない。
とても気持ちよさそうに眠っているので、起こすべきか迷った。
茫然と見つめていた。こんなにまじまじとガラクの顔を見るのも初めてだった。映画で見た顔と変わらずに、きれいで整った顔だ。
「寝込みを襲うつもりか?」
突然、目が開いてそう言った。私は飛び退いた。
「お……起きてたの!?」
「気配がするから目を覚ましたら、目の前におまえがいたんだ」
ガラクは動じることなく告げる。私は恥ずかしくなって顔を逸らした。
ガラクは首を捻り、私に尋ねる。
「メガネ、どうだったんだ?」
「あ、えっと、特に問題ないと思う……壊れたりもしてないし、普通に生活できたよ」
そう言いながら、メガネをガラクに渡した。
むしろかけていることを忘れるほどに違和感なく見えていた。日常使いに適切だろう。
ガラクは、私の顔をまじまじと見る。急いで戻ってきたので身なりに気が回っていなかった。無意識に顔を逸らす。
「いい目をしてるな」
突如、予想外の言葉が聞こえてきた。驚いた顔で振り向くと、ガラクは僅かに目を細めていた。
予期していなかっただけに、一瞬、自分に向けられた言葉だと認識できなかった。
ガラクは身体を起こして街を見渡す。そんな彼を横目で見る。
さすが元人気俳優といったところか。彼の発言は、あまりにも自然だった。
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