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ガラクに借りた小説を思い出していた。あの本には、物語の世界ではあるものの舞台は現実世界でも存在する場所で、キャラクターも私たちと同じ等身大の高校生だった。
とても眩しかった。少しものの見方を変えるだけで、私にもあのようなきらきらした世界になっていたのかもしれない。私はそんな世界を羨望の目で見ていた。
だが、自分もそのようになりたいと願う憧れや憧憬とは違う。例え舞台が用意されても自ら上がることはないだろう。
だから所詮、他人事。結局、物語。これはもはや諦めに近い。
「怖くないのか?」ガラクは真剣な眼差しで尋ねる。
私は準備を行っていた時のことを思い出した。あとは火をつけるだけ、という時に、無意識ながらライターを持つ手が震えた。
私が選んだ方法は、少なくとも痛みは感じないものだった。しかし、どうしてあの時手が震えたのか。本能的に恐怖を感じていたからなのか。
でも、これだけははっきりとわかる。
身体は恐怖したが、頭では本気で実行に向かっていた。結果としてこの世界に来ることにはなったものの、私は断行するつもりは一切なかった。そしてそれは、メイにも伝わっていた。
そもそも痛い思いをしないのに、生きることに目的もないのに、懸念する事項がない。やすらかに延々眠り続けるだけなのに、どうして怖いと思うのだろうか。
震えたのは自分でも何故かわからない。ただ、あの時の自分は本気だった。
「怖くないよ」
ガラクの瞳をまっすぐ見て、ハッキリと言った。
私のその発言に、ガラクは少し気圧された表情になるが、すぐに元の顔に戻り、「そうか」と呟いた。
「でも、まさか気になってるとは思わなかったから、少しびっくりした」
これは本心だった。彼なりに死に対する価値観を持っているとしても、私という一個人に関心を抱くとは思わなかった。
普段の対応はクールで冷静でも、決して人と関わるのを嫌ってはいないんだな、と改めて感じた。
「オレも、死ぬことを考えていたからな」
「…………え?」
「う、う~ん……」
話し声が聞こえたのか、メイが小さく唸るように声を上げた。私たちは黙ったまま顔を逸らして、メイに目を向けた。しかし起きた様子はなく、いまだ気持ちよさそうに眠っていた。
メイの小さい頭を撫でた。だがその手が僅かに震えている。私の視線は空を彷徨っていた。必死に平静を保とうにも繕うことができない。
それだけ私は、ガラクの言葉に動揺していた。
第二部 完
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