第三部

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 図書館に来るのは三度目になる。  中に入ると、ガラクはすぐに定位置に戻り、私の行動に一切関心を示さずに調達した本を開いた。相変わらず周囲は本で散乱している。  私は、押し花に使用できそうな、重くてぶ厚い辞書か図鑑を手に入れる為に館内を歩き、適当な本を見繕う。重し用にも四冊ほど手に持った。  このまま挟むと汚れてしまうので、間に挟める紙かティッシュが必要だ。だけどここには本しかない。ガラクの座っている場所に目を向けるが、本以外は何もなさそうだ。  眉をしかめる。本当にこの場所で生活しているのだろうか。寝床すらないように思える。居住するのに必要なものがあまりにもなさすぎるので、疑問を抱かずにはいられなかった。  裏街道の住民に、睡眠が必要ということは以前聞いたことだ。ガラクは、大半の時間を図書館で過ごしていて動くことが少ないからか、裏街道に来たのが最近だからか、睡眠がそれほど必要でない身体なのかもしれない。  思案しても解答が出るわけじゃない。手に持った本も重いので自室に戻ることにする。  外に出たと同時に、人の気配を察知した。  少し離れた先にメイが歩いていた。が、こちらに気づく様子がない。それどころか、どこか虚ろな様子で遠くを眺め、おぼつかない足取りだった。  悪寒が走った。普段の明るいメイではなく、時折見せるもう一面、闇のあるメイのように感じられたからだ。  メイはそのままアパートの中へと入った。その間もこちらには一切気づく様子はなかった。  ガラクについてもだが、それ以上に一緒にいるはずのメイの方が何も知らない。それに一緒にいればいるほど、彼の一個人という存在が掴めなくなってきていた。  書店に向かう際にも浮上した罪悪感。でも今さら後に引くこともできなくなっていた。  私は気配を殺してアパートへと足を進めた。
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