第三部

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「メイ……」 「どうしたの?こんなところに来て。もしかして、飛び降りでもしたくなった?」  いつもの笑顔でそう言った。ブラックな内容でありながらも、笑顔で言われたら許せてしまえそうな気になる。  しかし、その眼に差している光は、僅かに濁っていた。 「そんなわけないでしょ。こんなところで死ぬわけにはいかないんだから」 「さすが、揺らぎない覚悟だね。おもしろいよアリスは」  そう言うとメイは私の手を取った。いつものことなのに私は反射的にびくっと反応する。メイはキョトンとした顔で私に振り返る。 「どうしたの?アリス」  あどけない表情でそう言った。その目は私を見据えていた。 「いや……このアパートの中ってどうなってるのか知らなかったから、ちょっと探索してみようって思ったんだけど、立入禁止があるなんて知らなくて驚いていたから……」  あくまでこのアパートに関心がある、といった態度で言った。  メイはずっと私から視線を逸らさない。私の緊張はどんどん高まった。  だが、やがてメイはコロッと表情を変えていつもの笑顔になった。 「興味を持ってくれて嬉しいな。でも、ここにも書いてあるでしょ。屋上は危ないから入ったらだめだよ。万が一落ちて死んだりしたら大変だよ。もっとボクに構ってほしいんだから。ねぇ、今日は公園に行こう?」  メイは私を諭すように言うと階段を下り始めた。そんな彼を見て、諦めたように息を吐く。  屋上には何かある。もはやこれは確実だろう。
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