第三部

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 アパートから十分ほどの距離に公園があった。遊具はすべり台とぶらんこのみ。あとは砂場とベンチしか置いてないこじんまりとした公園だ。公園内には誰の姿も見られなかった。  以前見た夢も小さな公園が舞台だったが、当然だが今見ている公園には見覚えがない。 「ボク、公園が好きなんだ」  メイはぶらんこを軽く漕ぎながら呟く。重力によって軋む柱、年季の入った音がとてもレトロだ。 「よく来るんだね」 「昔は、公園がボクの家みたいな感じだったからさ」  何気ない調子で言ったので、一瞬耳を疑った。食い入るには棘があり、流すには少々引っかかる。  私がどう反応すべきか迷っていると、メイは言葉を続けた。 「公園にいれば、いつも誰かがいたからね。相手の名前を知らなくたって、同じ場所にいるという理由だけで一緒に遊ぶことができた。唯一楽しいと思える場所だった。でも、暗くなるとみんな帰っちゃうからすこし寂しかったな」  メイは過去を思い出しながら、滔々と吐露していた。私はうまく反応できない。 「表にいる時は、周りの目ばかり気にしていた。だけど裏街道に来てからはみんな同じなんだって気にならなくなった。だからボク、本当に裏街道が大好きなんだ」  そう言うと、メイは私に顔を向けた。 「ねぇ、アリスは表に帰ったら死ぬんだよね?それは今も変わってないの?それまではボクに構ってくれるんだよね?」  唐突だったのでたじろいだ。メイの目には、どこか不安の色が混じってる。 「変わってないし、それまではここにいるよ」  メイの本心はわからないが、質問の解答自体は元々決まっていたので、調子を変えずに返答した。  私の言葉を聞いたメイは、安堵した表情を浮かべて前方へ顔を戻した。漕いでいるブランコの速度を上げるのに比例して、柱が軋む音の大きさも増していく。ブランコで生まれる風が私の髪を揺らした。
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