第三部

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 しばらく遊んだ後、メイは電池が切れたようにその場に倒れたので、慌ててそばまで駆け寄る。また体力限界まで行動していたのだろう。何度目かとなるその光景も全く慣れずに動揺してしまう。  メイを背負って帰路につく。  太陽は上っておらず、カラスも鳴いていないが、夕暮れのように感じられた。耳をすませば、学校帰りの子どもがはしゃいている声さえ聞こえる錯覚に陥る。  ザァッと風が吹いた。半袖の制服なので少し肌寒く感じたが、背中で眠るメイのぬくもりがとても心地いい。  メイは、あれから何度も「裏街道が好き」と言っていた。以前から感じていたことだが、メイは本当にこの世界が好きなんだろう。だからこそ、私が裏街道に不安を抱くことを懸念している。  私は明確な期限を掲げて表に戻ると告げていたので、いずれ裏街道からいなくなることは、メイもわかっているはずだ。でも、それでも不安になった。  大好きな裏街道が、嫌われるのが怖いんだ。  私はメイを支える手に力を入れる。背中のぬくもりが消えないように、アパートに向かう足が速くなった。  メイの部屋に入り、しきっぱなしにしてあるふとんの上に寝かせる。周りを整えて、かけぶとんをかけてもなお起きる気配を見せない。  メイの隣に腰を下ろして、しばらく思案する。  メイは大好きな裏街道が嫌われるのを恐れている。でも、だからこそ都合の悪いことは、見えないようにしているのではないのか。  屋上の前にかかっていたカーテンを思い出す。あんなにもわかりやすく禁止と提示されているのだから、普通は入ろうとは思わないはずだが、以前から抱いていた違和感からも、屋上に何かあることは確信している。  とはいえ、一人で行くには中々勇気が必要だった。 「ガラクは、このことは知っているのかな……」  裏街道に来た際に、唯一メイに紹介された人物だ。恐らくメイのことを一番知っているのはガラクだろう。もしかしたら、屋上の件も何か知っているかもしれない。  隣で眠るメイを見る。すやすや寝息を立てており、しばらくは起きそうもない。  音を立てぬように部屋から出る。その足で図書館に向かった。
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