第三部

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 人形だろうか。  屋上には、数人の人形のようなものが椅子に座らされていた。目は閉じており、どれも澄ました顔をしている。ここからは特に傷なども見られず、きれいな状態だ。  ガラクの背後から、扉の向こうの景色を伺っていた。血痕や警告カーテンからも、凄惨な光景が広がっているものだと思っていたので、今見ている光景に茫然としてしまう。  しかし、どうしていまだ心臓は鳴っているのか。人形にしてはあまりにも精巧な作りに見える。  何より気になるのは、今まで感じていた気配と目の前のそれが一致したことだ。  ガラクは扉を開けてから微動だにしない。とにかくもっと近くで確認しないことには判断できない。  扉から身体を乗り出そうとするが、ガラクの腕によって制された。 「あれは……人形じゃない」  ガラクは前方を見据えたまま静かに言った。その言葉が何を意味するか、すぐには理解できなかった。 「で、でも、どういうこと?だって動かないよね……」 「正確には、動けない、ようだ」  ガラクは周囲を見回す。何か発見したのか、屋上に足をつけ、私が外に出る前に扉を閉めた。 「ガラク?」  扉を開けようとするがびくともしない。扉の向こうに何かつっかえているようだ。 「そこで待ってろ」  そう言い残して、ガラクは扉の前から離れた。私は目を落とし、唇を結んだ。  もうわかっていた。ガラクの言葉の意味も、ここまで配慮をしてくれた意味も。  先ほど見たものは、人間ではないのか。だが、とても息をしているようには見えなかった。  人形のようにきれいに佇んでいたことに驚いたが、変化がない裏街道の性質を考えたら納得がいく。例え息絶えたとしても腐敗することはないからだ。そのことにいち早く気づいたガラクが、詳細に見させない為にこのような配慮をしてくれたのだろう。  どうして死体があるのか。メイはここで何をしていたのか。次々と疑問が膨れ上がるが、メイの本心が見えないので割ることができない。  扉の向こうから足音が聞こえてきたので我に返る。扉を開けたガラクは相変わらず冷静だが、考え込むような顔をしている。 「ど、どうだったの……?」 「立ち話もなんだ。おまえの部屋ででも話そう」  ガラクはそう言うと、階段を下り始める。 「部屋はどこだったか?」 「えっと、二○一だよ」  頭がいっぱいだった。一体ガラクは屋上で何を見たというのか。
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