第三部

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 通常、表で逃避願望が生まれると、目が黒くなり現実が見えなくなる。そして気づいた時には裏街道に来ていた。だから具体的にどのような方法で裏街道に来たのかがわからないとガラクは言う。  だったら 「私が通ってきたトンネルのような場所は一体何なの……?」 「オレが知るわけない。そもそもオレは今までメイが連れて来ていたとすら知らなかったんだ。オレらが裏街道に来た具体的な方法を説明できないことからも、目の白い奴らがこの世界に迷い込んだと言えば説明がつくからな。特にあいつはおもしろそうな奴がいると積極的に関わるから、連れてくる奴も珍しい目の白い奴が多いとしか考えてなかった」  ガラクは少し困惑した調子で弁解する。 「だからお前が『表に帰った』と言った時、初めて行き来できる場所があることを知ったんだ」  だから私が本を届けに行った際、ガラクはあれだけ考え込んでいたのか。私が軽い調子で言ったこともあるだろうが、そのような場所があることすら知らなかったなら、「表へ帰っていた」だなんて言葉は、なおさら聞き捨てならないはずだ。 「おまえの言うトンネルがどのような場所かはわからん。しかし、わざわざメイが表の人間を連れてくる理由。それはさっきも言ったが、自らの意志で裏街道に来た人間は他人に干渉しないから。そして連れて来られた人間があのような状態になってる理由」 「これは多分、表に帰ろうとしたから……」 「恐らくな」  でも、そうだとすれば、 「私もあの人たちのように殺されるの……?」  元々裏街道にいるのは三十日までだと伝えていたはずだ。そのことに関してはメイは否定していなかったが、表の世界に帰ることにはなる。  しかしガラクは、この問いに関しては表情を変えることなく答えた。 「それは恐らくないだろう。これは憶測でしかないが、おまえは帰ったら死ぬとメイに言ってるんだろう。メイは裏街道と表を比べられて『表に戻りたい』と思う感情が嫌なのだと思う。好きなものと嫌いなものを比べられる発言が一番気に障るだろうから」  言われてみれば確かにそうだ。私が表に帰った時もそういった素振りを見せることはなかった。むしろ死ぬことに関しては特に止める様子もない。  しかし、何よりも最大の疑問が残っていた。 「でも、どうしてあのような状態に……?」  一瞬見た死体の状態からも、恨みといったものは感じられなかった。ハサミで固定されていると言ったが、それもこちらからは確認できないほどだった。むしろずっときれいなまま大切にしているようにも思える。  それにメイは、たびたび屋上に上がって何かをしている。ただ衝動に駆られて感情的に殺したのではなく、何か意味があるように思えた。  ガラクは再び考え込み、しばらくしてから顔を上げた。 「おまえは知らなかったな。メイが何故、裏街道に来ることになったのか」
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