第三部

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 背筋が伸びた。私からは触れられなかった一番デリケートな部分。 「ガラクは知ってるの……?」 「あぁ。ずいぶん前にメイが話したことがある」  ずっと気になっていた。どうしてあんなに幼い容姿の頃に裏街道に来ることになったのか。 「でも、勝手に話してもいいの?」 「あいつだってオレのことを話したんだ。少しくらい構わんだろ」  ガラクは開き直ったように言う。 「とはいえ詳細まではわからん。それに言葉では簡単に片づけられず、また簡単に理解できることでもないが、メイは誰にも存在を認めてもらえなかったと言っていた」  十歳にも満たない歳だ。私たちが想像するよりも何倍も辛いはずだ。 「母親は蒸発して、父親と二人暮らしだったらしいが……その父親が逮捕されてからは、親戚をたらいまわしだったって言っていた。それでも結局、居場所はなかったって言っていた」  あえて父親が逮捕された原因は言及しないガラク。公園が家みたいな場所と言っていた。あの時どんな思いでその言葉を言ったのだろうか。  私が俯いて黙ったので、ガラクもそれ以上は口にしなかった。 「だからこそ、メイは他人からの愛に飢えていた。表で自分の存在を見てもらえず、誰にも構ってもらえなかったからこそ、裏街道ではその穴を埋めるように表から人を連れて来ているのではないのか」  ガラクは目を瞑って息を吐く。続く言葉を選んでいるようだが、中々出てこないようだ。表が嫌いと同時に、一人にはなりたくなかった。だから現状に繋がるのだろう。  裏街道では死体が腐敗しない。だから例え心がなくなろうとも、無理やり存在を繋ぎとめることは可能なんだから。  メイの行動は万人に理解されるものではない。ただガラクも以前言っていた。個人の意見が全員に受け入れられることはない、と。  例え一方通行になろうとも、メイは一人じゃない喜びを感じていたのかもしれない。それほど人に見られることがなかったのならば尚更だ。 「まぁ、後半はほぼ憶測だけどな」  ガラクは両手を広げて肩を竦める。「しかし、あのカーテンは少し気になるな…」と呟きが聞こえてくるものの、私はどう会話を続けるべきか悩んでいた。  正直、私も理解はできない。だけど普段無邪気で明るいだけに影が暗く感じてしまう。裏街道だからこそ埋められる穴なのだろう。  ガラクを一瞥すると、机に置いていた図書館の図鑑に興味を持っているようだった。 「あ、それは押し花を作ってるだけで、読んでいるわけでは」 「きれいにできているじゃないか」  ガラクは押し花をしていたページを開く。厚みはなくなったものの、花の美しさは健在していた。 「本当だ。今度しおりにでもしようかな」 「そんなものできるのか」 「ラミネートすればいいだけだから簡単だよ。よければガラクの分も作ってあげる」  流れでそう言ったが、意外にもガラクは少し微笑み、「楽しみにしている」と言った。 「メイの様子を見に行こうか」  ガラクがそう言ったので、私たちは部屋を出た。
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