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部屋に入るとメイはいまだ気持ちよさそうに眠っていた。ポケットからスマホを取り出して電源を入れると「二○一九年八日二十日二十時三十六分」と表示される。
「まだ眠ってるね」
「あぁ」
私はメイのそばに腰を下ろす。栗色の髪をそっと撫でると、とても柔らかくてふわふわしていた。まるで子犬のようだ。
その瞬間、ううん、という声と共に、メイが目を覚ました。
「メイ?」
熟睡しているように見えたのでまさか起きるとは思っていなかった。つい頭を撫でてしまったがその行動に少し罪悪感を感じた。
「アリス……?それにガラクも……どうしたの?」
目を擦りながら尋ねる。その目にはまだ眠気が潜んでいるようだ。
「さっきまで公園で遊んでいたの忘れたの?疲れて眠っちゃったんだよ」
あくまで屋上のことは触れないように答える。
「あ、そうだったね。ごめんね。ボクすぐに眠たくなっちゃって……」
目は閉じかかっている。再び眠りに落ちそうな勢いだ。
「無理して起きていなくていいから。ゆっくり眠ってね」
安心させるように頭を撫でながら言うと、メイは力なくふにゃっと笑った。私の手に頭をくりくりして目を閉じた。
「えへへ、でもこうして起きた時に二人がいてくれて嬉しいな……これなら安心して眠れるや。おやすみアリス、ガラク」
「……おやすみ」
眠気がピークに来たのだろう。メイはこてんと枕に頭を乗せて、再び眠りに落ちていった。
撫でていた手を元に戻して身体を起こす。寝息を立てて眠るメイを見つめながら頭を悩ませた。この場に残るべきだろうか。
「どうしよう……?」
私の後ろで壁に肩を預けていたガラクに尋ねる。
「好きにすればいい。別にそいつにずっと構ってる必要もない」
ガラクはそう言いながら、ズボンの後ろポケットから何か取り出してメイの眠っているそばに腰を下ろした。手には文庫本を所持している。
私は、ガラクの発言と行動のズレから、現状を一致させることに少し時間がかかった。
「えっと……ガラクはここに残るの?」
「どこでも本は読めるからな」
澄ました顔で答える。私に構う必要がないと言いながら、本人は当然のようにこの場に残るようだ。
「素直じゃない」
「ツンデレじゃないぞ」
「そんなこと言ってない」
ガラクの鋭い視線が刺さる。私はその視線に気づかぬふりをして脚を崩した。
窓の外を眺める。相変わらず太陽の昇らない空だ。私たちの間に静かな空気が漂うが、今はこの沈黙がとても心地よかった。
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