第三部

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 部屋のソファに腰を下ろし、ふうと息を吐く。歩き慣れたとはいえ、ショッピングモールまでは結構距離がある。長時間歩いたことにより、むくんだふくらはぎを軽く揉んだ。  机に入手してきたものを並べる。ラミネートは機械で行うものではなく、透明のフィルムをめくり、間に挟むだけで簡単に完成するタイプのものを入手していた。  フィルムをめくり、そこに適当な大きさにカットした押し花を並べていく。気泡が入らないように空気を押し出すようにして、丁寧に挟み込む。板とフィルムの接着が完了したら一枚一枚ハサミで切り分け、上部に穴を開ける。そこに三色のリボンをそれぞれの穴に通していく。  簡単ではあるが、しっかりとした押し花のしおりが完成した。 「まぁ、いい感じじゃないかな……」  主婦が言っていたように、この花はとても丈夫だ。押し花にされてもなおその花の美しさが失われておらず、生き生きとしている。  きれいにできたなと自画自賛する中、大前提のことを思い出す。 「よく考えたら、二人とも男の子だった……」  かわいらしく仕上がったが受け取ってくれるだろうか。しかし、楽しみにしていると言ってくれたガラクの顔を思い出したので、その不安も薄れた。  私はソファの背もたれに身体を預け、天井を見上げた。  いつからだろうか。相変わらず一言多い気がするが、ガラクは以前よりも丸くなったように感じられる。メイが優しいと言うのもだんだんわかるようになっていた。  そばに置いていたガラクから借りた小説に目をやった。自分のあり方を少し変えるだけで、物語のような世界が私にも広がっていたのかもしれないんだな、と自分を哀れんだ。  そこでふと、表紙を見て違和感を抱いた。  本を借りた当時は、裏街道の誕生した時代に気づいていなかったので、ごく自然に受け入れていた。だが借りた小説の表紙は、どれも今現在でも見ているような若向けの本だと窺える。  以前読んだ『青い夏』を手に取り、奥付を確認した。そこには「二○○七年五月二十一日 初版発行」と書かれていた。 「あれ……?裏街道ができた時よりも後に発行されている……?」  他の数冊も確認してもどれも二○○○年以降に発行された作品ばかりだった。裏街道では新刊が発行されないことはガラク自身が言っていたことだ。それなのに裏街道が誕生したよりも後に発行された本がここにある。 「ガラクが表から持ち込んだもの、とか?」  そうとしか考えられないが、表では本を読んでいなかったと言っていた。  またひとつ現実を見たことで、謎が増えてしまった。
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