第三部

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「ミカ……?どうしてこんなところに……」 「それはこっちのセリフだよ。アリスみたいに強い人がどうしてこんな世界に来てるの」 「私は、その……いろいろあって……ミカこそ…」 「知ってるでしょ。私は気丈に振舞ってるだけのとても弱い人間だから」  そう力なく笑うミカ。懐かしい顔だが、そんなミカのことでさえ、今の今まで気づかなかった。  ヘアピン、ホラーハウス、夢に出てきた少女、私の過去の記憶。各ピースを当てはめていけば全て同一のミカだとわかることだったのに。  しかし赤の他人だと思って彼女を助けた。もしかしたら内心気づいていたのか?  頭の中でぐるぐる思考していると、ミカが口を開いた。 「ねぇ、アリス。いまアリスの目には、裏街道はどう映ってる?」 「どう映ってる、とは?」唐突な質問に首を傾げる。 「きれいに色づいてる?明るい?カラフル?」 「確かに、ミカの顔はハッキリと見えるし、この山の葉の青さは新鮮だなって思うけど…」  そう言って私は辺りを見回す。ザァッという音と共に青々とした葉が揺れた。  だが、目の前のミカは少し悲しそうな目をした。 「手遅れになる前に帰ったほうがいいよ」 「え?」 「ここはとても居心地がいい場所。だけど手遅れになると、もう表で生活できなくなる」 「表で?」 「何だってそうでしょ」そう言って、ミカは微笑む。 「一度死んでしまうと、生き返ることはできない」  その瞬間、ミカは何かに撃たれたように身体を逸らして倒れた。水しぶきのようなものが飛んできて反射的に目を瞑る。頬に付着したそれは、とても生暖かくて、ただの水じゃないとすぐに理解した。  おそるおそる目を開ける。  ミカの額には、ハサミが刺さっていた。
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