第三部

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 幸いアパートから公園までは距離が近いので、コンビニを探す手間もなかった。普段利用しているコンビニで、ありったけの消毒液と薬、包帯、水、タオル類を掻き集めて公園に戻る。  ガラクはベンチの上で足を伸ばし、患部に脱いだ上着を当てている。いまだ顔を引き攣らせていた。私は持ってきた品を慌てて地面に広げる。  気が動転している。私には手当ての知識がほとんどない。  目に入った消毒液を持ち、ガラクの手を退けて患部に勢いよくかけた。  その瞬間、ガラクは目を見開いて顔を歪ませる。想像以上に染みたのか、あ、と思った時には遅かった。 「この……脳筋かてめぇ……!」  痛みからか、普段以上に口が悪い。申し訳ないとは思いつつも、それだけ反応ができる元気があることに少し安堵した。 「よかった……」 「よくない。やるならもっと丁寧にやれ」  ガラクはぶっきらぼうに言うが、傷の深さからもガラクが無理をしているとわかる。  私が取り乱してどうするんだ。深呼吸して頭を落ち着かせる。まずは止血だ。 「ねぇ……この傷って治るの?」  手を動かしながら、疑問に思ったことを口にした。  屋上で見た死体。息をしていないのは確実だろうが、全く腐敗している様子はなかった。それは変化の起きない裏街道だからだ。  私の考えは残念ながら正解らしく、ガラクは首を横に振って答える。 「知っての通り、変化の起きない裏街道では、自然治癒は期待できない」  私は顔面が蒼白になる。しかしガラクは、だが、と続ける。 「薬の効能で治るはずだ。オレがケガを負ったように、人間が手の加えたことに関しては、変化を起こすことは可能だからだ」  手を加えれば変化は起きる。裏街道に来た際にメイも言っていたことだ。  でもそれなら薬の効能にしか期待できない。もっと良い薬を使った方がいいのではないのか。 「心配するな。これくらいのケガ、なんてことない」  私の不安が顔に滲んでいたのかもしれない。ガラクは私を安心させるように声色を温かくして言った。  止血が終了したので、次は患部だ。 「少しでも早く治るようにさ、患部に直接手当した方がいいと思うの。この状態で脱ぐのは無理だろうけど、ケガの周りの部分だけ少し服切ってもいい?」  私のその問いかけに、ガラクは怪訝な顔をした。  そんな顔をされても、自然治癒が望めないならば、なおさら傷に直接薬を塗るしかないではないか。  悶々として黙り込むが、ガラクは私の思考を理解しているのだろう。小さく息を吐きながら、ズボンの裂けた箇所に手をかけて服を裂き始めた。  直視しているのは悪いと思い、視線を逸らそうとしたが、予想外のものが目に入ってきて、逆に目を見開いてしまった。  普段は首元まで隠れる服を着ていたので、初めて見たガラクの素肌。  その肌は、おびただしい数の傷がついていた。 「え……?」 「……そういう反応をすると思った。だから躊躇ったんだ」  完全に手が止まった私を見て、ガラクは促すように声をかける。 「まずは手当てをしてくれ。話はそれからだ」
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